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【第48回三田祭特集2006】
メディア・コミュニケーション研究所 三田祭トークイベント2006
「ニュースの職人 報道の明日〜未来のニュースはこう変わる」
 ゲスト:鳥越俊太郎

 11月25日(土)、メディア・コミュニケーション研究所(以下メディアコム)の主催でジャーナリスト鳥越俊太郎氏のトークイベントが行われた。ただゲストが一方的に話すだけの「講演会」で終わらないのが毎年開かれるこのイベントの特徴である。今年も学生のプレゼンテーションやディスカッションなど工夫を凝らしたイベントとなり、会場の西校舎ホールは、学生や一般人であふれ、満席となった。



 ■僕が痴漢で逮捕される!?〜報道の現状〜

 まず、最初に学生側から「僕がニュースになる日」というタイトルで、ストーリー形式のプレゼンテーションがなされた。内容は、慶應義塾大学に通うA君に痴漢の疑いをかけられ、「メディア・スクラム」(*1)や「記者クラブ」(*2)などによって報道被害に遭うというものである。これらマス・メディアによる報道の現状に関して、鳥越氏が学生の質問に答えていくという形でディスカッションが始まった。

―報道の現状について
鳥越氏「昔は『報道被害』という言葉自体が存在しなかった。桶川ストーカー殺人事件など、被害者側が声をあげるようになってだんだんとそのことが認識されるようになった。 報道被害には2つの特徴がある。1つは『取材されること』で精神的に圧迫をうける、2つ目は『報道されること』で、人権侵害されることである。」

(*1)メディア・スクラム
 報道関係者が大人数で取材対象者・対象地域に押しかけ、執拗に付きまとう行為のこと。被害者・容疑者および関係者、あるいは近隣住民に取材陣が殺到し、プライバシーを侵害したり、社会生活を妨げたりする。

(*2)記者クラブ
首相官邸、省庁、地方公共団体、警察、業界団体などに設置された記者室の取材拠点であり、特定の報道機関の記者が集まった取材組織。中小メディアやフリージャーナリスト、海外メディアの加入をクラブ側が拒否することが多い。取材対象との癒着も生じやすい為、記者クラブの存在は国内外から批判されている。

■新しい報道メディアの誕生〜「オーマイニュース」とは〜

 以上の問題点を打破する可能性として生まれたのが鳥越氏が編集長を務める市民参加型インターネット新聞「オーマイニュース」(http://www.ohmynews.co.jp/)(*3)である。学生側から「オーマイニュース」についての説明や、実際に編集部を訪れインタビューをしている映像が流れたあと、ディスカッションが行われた。

―オーマイニュースについて。
「既存のメディア、いわゆるマス・メディアでは情報を一方的に流していたが、インターネット上で誰でも情報を発信できるようになった。カラオケの発達により人前で平気で歌えるようになったように、人前で自分の意見を表現できるようになった。」

―インターネットは「匿名性」に特徴があり、「情報の信頼性」が問題になっていますが。
「『オーマイニュース』は基本的に実名が記される。例外的にペンネームの場合もあるが、編集部側は実名がわかっている。登録するときに名前、住所などだけでなく原稿料の払い込み先まで登録してもらっているためである。このように実名で発言することで信頼性を高めている。このことを私たちは『責任ある参加』と呼んでいる。」

―「誤報」の心配はないのでしょうか。
「私はニュースは必ず不完全なものであると思っている。それは既存メディアでも同じである。誤報の可能性は常に疑っていなくてはならない。しかし一歩でも真実に近づこうとする努力は大事だ。」

―「誤報」の場合の対処はどうするのか。
「ワシントンポストの誤報(*4)への対応にひどく衝撃をうけて以来、読者にたいして全力で真相を調査し、説明することをこころがけてきた。サンデー毎日編集長時代の誤報でも、ノンフィクション作家柳田邦男氏に、実名で誰がどのような指示をし、どこに原因があったのか徹底的に調べてもらい、特集記事を載せた。『オーマイニュース』では今のところ誤報は発見されていないが、もし起きても同じような態度で臨むつもりだ。」

 次に、「オーマイニュース」の具体的内容の紹介がされた。どのチャンネルを回しても同じ映像、同じニュースが流れる―、そんな「画一的報道」が既存メディアで問題とされている一方で、「オーマイニュース」では市民の視点ならではの個性的な記事が多い。毎月、優秀な記事に贈られる「市民記者賞」を見れば、それは一目瞭然だ。鳥越氏は講演中、「公園のベンチが人を排除する? 不便に進化するホームレス排除の仕掛け(http://www.ohmynews.co.jp/HotIssue.aspx?news_id=000000001539)や、「気がついたら催眠商法会場 興奮」(http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000002537) の二本の「月間記者賞」の記事を紹介した。

(*3)オーマイニュース
「市民みんなが記者である」というコンセプトの下で発行される、市民参加型のインターネット新聞。現在、韓国版・国際版(英語)、日本語版がある。
2000年2月に韓国で設立され、2002年の大統領選において、前評判では不利だと言われた盧武鉉大統領の当選に影響力を持ったとされている。日本版は鳥越俊太郎を編集長に迎え、2006年8月28日に創刊された。

(*4)ワシントンポストの誤報
「ワシントン・ポスト」の女性記者、ジャネット・クックが1981年「8歳にして麻薬中毒に犯された少年」を取り上げた「ジミーの世界」と題する一連の報道により、米国最高の報道賞ピュリッツァー賞を受賞する。しかし、その後それがまったくの嘘であることがわかる。同紙はウォーターゲート事件で有名なボブ・ウッドワード記者に調査記事を書かせ、大々的に載せて検証した。

■あなたも市民記者に!

最後は、鳥越氏による会場への熱いメッセージで締めくくられた。 「是非、帰ったら市民記者の登録してみてください。そして、是非『身近なこと』からでいいのでニュースを投稿してみてください。これからの報道の在り方を変えていくのは、テレビでも、新聞でもなく、『オーマイニュース』だけです!」

 実は、私自身「オーマイニュース」を見たことがなかった。しかし、講演を聴いてから家で見てみると、予想以上に面白く、鳥越氏が講演中に言っていたことがわかったような気がした。身近で斬新な視点で語られる記事が多い。今年の8月に創刊したばかりなのに、すでに2000名以上の記者が登録されていることもこれに関係しているだろう。来年には1万人突破したいと鳥越氏は意気揚々と語っていた。
あなたも、是非市民記者になって、自分の記事を世に出してみてはどうだろうか? 1万人目の市民記者はパソコンの前に座っているあなたかもしれない。


鳥越俊太郎 プロフィール
 京都大学卒。65年、毎日新聞入社。88年、「サンデー毎日」編集長。89年から、テレビ朝日「ザ・スクープ」メインキャスター。2001年に、桶川ストーカー殺人事件における報道で日本記者クラブ受賞。2006年にオーマイニュース編集長に就任。

■ リンク
  メディア・コミュニケーション研究所http://www.mediacom.keio.ac.jp/
  「オーマイニュース」http://www.ohmynews.co.jp/

              

取材   大平明日香
写真提供   メディア・コミュニケーション研究所