ここまでは日米学生会議について、一ヶ月間で行なわれる充実した内容と長い歴史についてたっぷりと語ってもらった。学生会議の魅力が伝わってきたのではないだろうか。
ここからは、実行委員長の井上さん自身にフォーカスし、井上さんが学生会議に参加することになった経緯や、今年度の日本側実行委員長として今考えていることなどを聞いてみた。学生会議の選考についても、選考する側からの話を聞かせてくれたので、学生会議に参加してみたい読者は必見だ。
井上さんが日米学生会議に参加することになり、実行委員長を務めることになった経緯を語ってもらった。そこには、偶然に偶然が重なっていた。
―では、井上さん自身についてうかがいたいと思います。そもそもなぜこの日米学生会議に参加しようと思ったのですか?
う〜ん、なんだろう。めぐり合わせみたいなものでしたね。最初は日吉の掲示板に日米学生会議が主催する講演会のポスターが張り出されていて、「こういうのがあるんだ〜」くらいに思っていたんですけど、たまたまその日に講演会会場があった四谷にいて、たまたまその時間が暇になったから会場へ行ったんですよ。そうしたらたまたま大学の知り合いで、去年の学生会議の実行委員をやっていた友達がいて「何やってるの」って話になったんです。それで、その時に日米学生会議のパンフレットをもらったんですけど、特にやる気は無かったんですね(笑) ただ、直前になって、大学生活は何もやってないなぁ、インターンでもボランティアでもいいから何かやっておきたいなって思ったときにこれを思い出して、ちょうど締め切り間近だったから出してみようと思って出したんです。だから、特にキャリアプランがあってというわけじゃなくて、きっかけはそんな感じですね。
―いろいろな偶然が重なったのですね!
―なんとなく参加してみたということですが、去年は参加者としてどんなことを感じましたか?
そうですねぇ。知らないうちに、一ヶ月間ずっと一緒にいて、ずっと濃いことをやっていたから、相手との絆もすごく深まるし、おもしろい話もすごくできるし、おもしろいなぁって思いましたね。やっぱり一ヶ月間一緒にいるっていうのは一番大きいと思いますね。一ヶ月ずっと一緒にいて、ずっと話し合って、ケンカしたりとかもあって、それで一緒に日米学生会議を作り上げるのは本当にいいなと思いましたね。
今でも連絡を取っている人とか、アメリカから日本に来る人もいます。逆に日本からも、アメリカへ行って参加者のところを点々する人もいます。仲は良いですよ。
―すごく貴重な時間を過ごしたのですね。
―それを経て、今年は実行委員長ということですけれど、なぜ実行委員をやろうと思ったのですか?
そうですねぇ。やったときの気持ちと今の気持ちは違いますね。最初は本当に、前の年の実行委員に口説き落とされて、最後は「じゃあ、いいや、やっちゃえ」っていう感じだったんですね。でも元々、こういうのはどうやって作られているのかっていうのに興味は持っていたんですね。参加者は用意されているものをやる感じなので。でも、こんなに一ヶ月間移動するのってどうやるんだろうっていうことに興味もあったし。いろいろ企画したり作ったりっていうのは実行委員しかできないので、実行委員をやることと参加者として参加することはセットなのかなと思って。それを見ないと日米学生会議がどういうものなのかはわからないのかなと思ったのが、きっかけですね。
―実行委員になる上で不安はありましたか?
不安かぁ。僕は何かの実行委員みたいなことをやったことがなかったんです。だからもちろん実行委員長もやったことがなくて、なんで自分がそんな役になるのかよくわからなかったんですね。だから、そういう意味では不安といえば不安でしたね。だた、参加してすごく楽しかったんです。一ヶ月間ひたすら楽しんでいたんで、その勢いで引き受けましたね。
むしろ、やってからの方が大きかったですね。実行委員をやってみると、参加者の時には全く知らなかった事情を知るので、不安になることはなかったですけど、これは大変だなぁっていうことは感じましたね。例えば、一番最初に大変だなと思ったのは、お金のことですね。資金を出してくれていたのは財団が主だったんですね。賛助してくれる財団は理念に共感したボランティアみたいな形が多かったんです。でも、財団も金利が低くて運営状況が厳しくなったり、時代が変わったりで、活動に対してより明確に意義を求めるようになったんです。その中には打ち切りもあったりしました。そうすると、会議の形もただ単に一ヶ月間やっていくようなことはできない、その中からさっき言ったような社会発信をしていかなきゃとか、賛助してもらっている方に僕たちは何ができるんだろうとか、そういうことを考えるようになってきましたね。お互いに何が提供できるかっていう部分を共有して、それで賛助をもらって、実際に会議をやって。そこでも、賛助をもらったからこそ初めてできることをやるのはなかなか大変だなぁと思いますね。参加者の時は、ここにいくらかかっているかなんて
全く考えないで、すごく安い費用で参加できていいなぁって思っていたんですけど、実行委員になってみて初めて、いろんな人が関わっているんだなぁっていうことに気付きましたね。
―日米学生会議をやってみて、それ以外の生活で何か変わったことはありますか?
そうですねぇ。自分で自覚的に変わったところっていうのはわからないけど、実行委員だと何にしても自分でゼロから創らないとならないから、ゼロから創ることの大変さもわかったし、楽しさもわかりましたね。そういうのは、役に立つというか力になっているのかなって思っています。普段、自分たちはほとんどの場合参加者じゃないですか。そうすると、そこにどれだけの労力がかかっているのかとか、どういう背景があるのかってわからないですけど、実際に作る側としてやってみると意外にいろんな仕事があって、いろいろな人が関わっているんだっていうことがわかるようになりましたね。これまで学生団体って特にやっていなくて。それまでもバスケサークルはやっていたんですけど、学生団体に参加する人は自分とは違う人だなって思っていたんですよ。だから、たまたま参加して学生団体に対するイメージも変わりましたね。
―イメージっていうのはどう変わったのですか?
あっ、でも最初はイメージ通りのところもありましたね(笑) みんなで食事をしているときに「中国の経済は・・・」って話になったときはびっくりましたね。でも、自分みたいな人が入っていけない空間じゃあないなっていうことを思いました。
それは今の意識にもつながっているところがあるんですよ。もともと学生団体の活動に興味のある人は、自分達でいろいろと関わっているんですね。だから、僕らは普段興味の無い人達をどう巻き込むかっていうことを考えています。例えば、貧困問題っていうテーマを挙げても中々とっつきにくい人もいると思うんで、それをもっといろんな人が興味を持ちやすい音楽イベントみたいなものと絡めて、参加してくれる人を多くしようとしたりっていうことを考えていますね。去年の自分みたいに遊んでいる人をどう巻き込むかっていうことを考えているんで、そういう意味では自分が委員長をやるのはいいのかなと思いますね。
あとは、日米学生会議って他の学生団体から見て敷居が高い団体に見られているみたいなんですね。でも、最初に僕が入ったときはそういうことも知らなかったし、"敷居が高いってなんだよ"って思って結構暴れて。って、別に暴れたわけじゃないですけど(笑) 意外と僕みたいな人もいるんだって思ってもらって。それで、今も他の団体と一緒に活動しているんですけど、これからもなるべく他の学生団体と一緒にやりたいなって思っているんです。関わっている人が全然違うんで、発信できる相手も違うし、来てくれる人も違うし、お互いに学べますね。
あと、今年はアメリカ開催だから日本で何かやっておかないといけないっていう意識もあって、事前の活動がすごく多くなっています。その中で、参加者も一人一つは何か企画に関わろうっていうことで、参加者も実際に実行委員側の経験ができるようになりました。それも今年特に意識してやっていることですね。今年は全員が楽しいことをやろうって思っているんで。
―それは井上さんならではのところですね。
そうですかね(笑)
不要な壁を取り払って多くの人が楽しめるものを作っていこうと奮闘する背景には、「去年の自分みたいに遊んでいる人をどう巻き込むか」という井上さん自身の経験を基にした強い意識があった。そんな日米学生会議は、参加をすることで井上さんのように「ひたすらに楽しい一ヶ月間」を過ごし貴重な経験を得ることができるだろう。
それでは、日米学生会議に参加するためにはどのようなことをすればいいのだろうか? 応募者を選考する側でもある井上さんに、参加方法を聞いてみた。選考する側の気持ちや、多彩な参加者の顔ぶれなどの話も飛び出した。
―日米学生会議の募集について教えてください。
はい。毎年2月から3月にかけて選考があります。全国から募集していて、選考も関東と関西の二箇所で行ないます。その選考もその年の理念に合わせてやっていますが、今年はすごく応募者が多くて、160名くらいいました(*3)。そうすると、面接のキャパシティーがあるので、最初は一次試験という形でエントリーシートのようなものと、論文を書いてもらいました。二次試験は日本語と英語の面接とグループディスカッションと、一般教養問題もやってもらいました。それに加えて、TOEFLかTOEICのスコアも出してもらいました。
―かなり本格的ですね。
そうですね。それくらいやらないと選ぶことができなくて。選考をやって、人を選ぶのは大変だなぁって感じましたね。時間もかかるし、パワーも使うし。一日に分刻みの予定表を作って動いたんで、就職活動で選考する側の人の気持ちがわかりましたね。こういうところを見ているんだなぁっていうところで。
―参加者はどんな人がいるのですか?
いろんな人がいますね。関東の大学生もいれば関西の大学生もいます。理系の人もいますし医学部の人もいますし、大学院生も結構いますね。あとは、帰国子女で日本語より英語の方が話せるって言う人もいたりします。本当にいろんな人がいますね。人数が多い分だけ多様性も増していますね。アメリカ側も同じくらいいろんな人がいます。大学もいろんなところから来ていますし、アメリカに留学している日本人が参加していたりもしますね。
―いろんな参加者がいるだけでも楽しそうですね。
そうですね。それで更にすごく仲良くなるから、去年のメンバーとは今でも連絡を取っていますし。さっき話に出た、貧困問題と音楽イベントを絡めてみようっていうのも去年のメンバーの中から有志で始めたことです。他のイベントをやろうとしている人もいますし。本当にすごく刺激になりますね。
―なるほど。日米学生会議の魅力が益々伝わってきますね。
―今日はどうもありがとうございました。それでは最後に、特に学生が多いと思うので、この記事を読んでくださる大学生の皆さんへ、一言お願いします。
学生時代にしかできないことはやっておいたほうがいいと思います。僕はこういうのを知らなかったんですけど、だからこそホームページをちょっと調べてみたりして知ることは将来につながると思いますね。それが日米学生会議以外かもしれませんし。とにかく、今しかできないことを何かやっておいたほうがいいと思います。
学生会議について細かい部分まで熱く語ってくれた言葉からは、井上さん参加者として「ひたすら楽しんだ」昨年の会議以上に良いものを作りたいという強い想いがひしひしと感じられた。実行委員長になっても「自分みたいに遊んでいる人を巻き込みたい」という姿勢を持ち続ける井上さんが多くの人を巻き込んで作り上げていく学生会議は、今年も非常に充実したものになるに違いない。インタビューを終えてそんな羨ましさにも似た気持ちすら抱いた今回の取材だった。
■日米学生会議 http://www.jasc-japan.com/
■第58回日米学生会議概要 http://www.jasc-japan.com/outline/index.html