◆特集 - 第47回三田祭
一年の中で一番のイベントと言えば何といっても三田祭! 塾内外で注目されるこの一大イベントのために毎年赤いハッピを着た三田祭実行委員(通称:三田実)が並々ならぬ労力を費やしている。その中でも1年生は4,5月に入会し活動し始めるにもかかわらず、三田祭直前まで正式な委員として認定されないのだそうだ。そこで我々はある1年生に密着し、三田祭の準備に奮闘し正委員になるまでの軌跡を追った。
三田実の1年生の主要な仕事は「装飾」である。大きく分けて、1年生全員が担当し最初に取り掛かる「正門装飾」と、その後10グループほどに分かれて行う中庭や校舎内などの「細部装飾」の2つがある。
・学年全体の交流
三田実の1年生は3,40人いる。この人数がまとまるためには一つの大きな企画を全員で作り上げることが必要。装飾を通して各個人で交流をはかってほしい。
・主体的に仕事にかかわる楽しさを理解する
誰かに仕事をふられてそれをこなしているだけではつまらない。自分達で一から作り出す楽しさを知ってほしい。
・業務の進め方を学ぶ
企画書を書くなど、これから正委員として活動していくに当たって、完成までのプロセスを実際に体験することが不可欠である。
4,5月 一年生説明会
↓
7月23日 三田納涼カーニバル
↓
8月上旬 夏合宿(1年生による正門装飾会議開始:個々の装飾に関する企画書の作成を開始)
↓
9月下旬 装飾案決定、制作開始。順次細部装飾へ
↓
10月上旬 三田実委員長による1年生面接(この時点で正委員と認定される)
↓
11月5日 本祭説明会(実行委員全員に対して三田祭当日に関しての説明会)
1年生に赤いハッピ配布
↓
11月6日 正門装飾テスト組み立て、完成。細部装飾作業は継続。
↓
11月20〜23日 三田祭本番
僕は悩んでいた。大学生と言ったらやはりサークル。だが色々なサークルを回ってはみたものの、どれもぬる過ぎる・・・。
そんな時友達から三田実の話しを聞いた。率直な感想は・・・・・熱い! やはり三田祭という大きい目標があるだけに他のサークルとは真剣さが違う。ここしかないと思った。
三田商店街との協力で行う三田納涼カーニバル。事実上これが三田実としての出発点だ。それまでは一年生には全然活動がなく、「ここが本当に実行委員会?」という気持ちだった。でも実際にカーニバルに露店を出して接客し、団体としてのまとまり・気持ちを知った。
このカーニバルで初めて赤いハッピを着たのだが、それは委員会の備品。自分のハッピを貰うにはまだまだ長い道のりが待っている。
一気に仕事が現実化してきた。いよいよ三田実本格始動だ!
▲会議風景
先輩達との絆が深まる夏合宿。まずは三田実のシステムを知るところから始まった。普段はおちゃらけていても会議になると真面目モードに切り替わる先輩達を見てさすがだと思った。仕事が出来るってこういう人たちのことを言うのだろう。
そしていよいよ1年生の装飾会議である。みんな装飾案は「光らせたい」「動かしたい」など方向性はバラバラ。個人の趣味の域だ。しかも会議はまとまる気配まるでなし。そこで装飾案の企画書を募ることになった。一体この先どうなることやら・・・。
何気なく自分で装飾案を書いてみた。他人が決めたのに沿ってただ仕事をこなすだけでは楽しいわけがない。せっかくこんな大きなプロジェクトに参加するのだから自分から主体的に動かないと!
しかしこの行動が彼を苦しめることになる・・・。
第2回装飾会議で自分の書いた企画書を提出した。最初からダメもとで出したのだが、こんなにも皆に叩かれるとは・・・。
他にもいくつか案があり、それぞれの企画書にバンバン質問が飛んでくる。案を作っている時はそんなに熱い思いを持ってやったわけではなく、企画書も作り込んできてなかった(設計図も行きの電車の中でチョロチョロと書いたぐらい)ので、質問が飛んでくるとかなり焦った。これはもっとちゃんと準備しなきゃまずい。もっと企画書を詰めていこう。
その後何回も質問会議が開かれる。
企画書を詰めても詰めてもどんどん質問が来る。何日も考えて練ってきたものを数分の思考で思いついた質問で覆されるという繰り返し。むなしすぎる。地獄だ・・・。他の候補案も会議を重ねるたびに良い企画書を作ってくるし、対抗相手だから厳しい質問も飛んでくる。いつになったらこの輪廻から抜け出せるのか・・・。
そして会議中1年生の意見が分かれ対立することもしばしば。まるで冷戦状態。でも話し合いの中で個人個人が今考えていることが見えてきた。結構こいつ良い奴だなっていう意外な発見もあった。
つ、ついに僕の企画案が通った。やっとあの質問攻めの日々から開放される。しかしこれからが大変だ。リーダーとしてまとめなくてはいけない。でも、これをやってくれという上からの指令の形だと一方通行でやってくれないだろう。そこで先輩と相談して班にふった。僕は全体のまとめ役ではあるけれど、それと同時に1年生の中の1人でもあるのだ。
まずは材料購入。毎年買っている布屋で、「予算が足りないんです」ともらしたら店長のお爺さんが「じゃあお勉強してあげよう!」と半額近くまで安くしてくれた。なんでこんなに気前が良いのか?なんとその店長は塾員だったのだ。慶應のつながりは強いんだなと実感した。ますますやる気が出てきた。
そんな中問題が発生する。
例年に比べなかなか作業が上手く進まない。正門装飾は11月にはもう完成していなくてはいけないのに、このままでは間に合わない。各班の連携が取れていないのだ。 リーダーとしての指示があまりないという意見もあった。皆の主体性を募るというこのスタンスはいけないのかなと迷った。落選した企画書の人のことを考えると上手くまとめられない自分が申し訳ない。もしかしたら他の企画のほうがスピーディにすすんでいたかもしれないのに。もっと自覚を持たなくては。 胃が痛くなってきた・・・。
なんだか1年生全体が精神的に分裂してきたようだ。会議を開いてモチベーションについて話し合った。今までは各班がどこまで進んでいるかを細かく連絡していなかった。メーリングリストを頻繁に使い、作業全体に透明性を出し、全体のモチベーションを上げていこうということになった。
1年生全員に情報が行きわたり意識が変わってきた。最初はやりたいことをやれば良いと思っていたが、皆で一緒にやろう!という感じが出てきたし、いつのまにか毎日作業場に来ている1年生がとても多くなった。皆の集中力が上がってきたようだ。
だんだんと正門装飾が形を成してきた。思っていたよりも大きく、迫力あるものになりそうだ。最近先輩や仲間に「大変だな、応援してるよ!」と声をかけられる。自分の装飾が終わってる人たちは自分から「何か仕事ない?」と聞きに来て手伝ってくれる。毎晩のように電話で相談にのってくれる親友もいる。皆ありがとう、こんなに頼りなくて申し訳ないけど頑張るから! 完成まであともう少しだ。
正門装飾と同時に細部装飾も進めなければいけない。僕が担当しているのは「マッハマン」という企画の装飾。三田実の本部企画局が企画したものだが、会議でボッコボコに叩かれても残ってきた企画だからそれだけ熱いし、面白い!最近はマッハマンに愛着がわいてきた。作る備品が多くてそのために日吉から三田までの定期を買って毎日通うほど大変だが、先輩たちがどれだけこの企画にかけているかを知っているから僕らも装飾に妥協したくない。絶対に中途半端なものでは終わらせない。
いよいよ委員長面談で僕の順番が回ってきた。委員長と面談というと堅苦しいのかと思ったが、実際はその真逆だった。作業の進み具合や悩みなどを、三田実ならではのフレンドリーな雰囲気で話し合った。そして最後に「これからも三田実をやっていきたいか」と聞かれ、「はい」と応えた。どうやらその瞬間、正委員になったようだ。この面談は意思の再確認のためのものだったのだ。なんだか拍子抜けしてしまったが、これでやっと自分の名前が委員名簿に書き加えられるのだ。
今日、本祭説明会があった。1年から4年まで皆で説明を受けた後、1年生へハッピが手渡された。これが自分のハッピなのか・・・。真新しすぎてなんだか変な感じだ。実際に本番でこのハッピに袖を通して先輩に色々書き込んでもらってようやく実行委員になったんだと実感できるのだろう。その時が楽しみだ。
ふと仲良くなった4年生の引退が近づいているんだなと思った。もうそろそろだよねという言葉を聞いて寂しくなった。でもその先輩達のためにも三田祭を絶対に成功させなくては! いっそう気合が入った。
そしていよいよ完成の日が・・・
▲当日の装飾には乞うご期待!
ついにこの日が来た。今まで1年生全員で頑張ってきた正門装飾のテスト組み立てだ。自分が紙に書いたものが実際に立体になり、大きく掲げられた装飾はとても迫力があった。これは各班の人が試行錯誤してくれて良いものを作り上げてくれたからこそ出来上がったもの。今までいろんなことで皆に頼ってきた。これは自分だけじゃない、皆の努力の結晶だ!
この僕らの自信作を1人でも多くの人に見てほしい。
いよいよ三田祭本番が目前に迫っている。正門装飾は完成したが、細部装飾はまだ完成していない。ここから気を抜かずにラストスパートだ。
本番は不安だが、先輩を観察してしっかり勉強しようと思う。そして僕には大切な仲間がいる。個性が強くてぶつかり合ったこともあったけど、でもそれは皆それぞれがちゃんとした意見を持っているからで、やる気が感じられるし、負けたくない。お互い切磋琢磨できる素晴らしい仲間だ。僕達ならやれる。後悔はしたくない、絶対に成功させてみせる!
我々がこの取材で密着させていただいたある1年生は「皆が平等に頑張っているのに自分だけ取材されるのは申し訳ない。」と言っていた。その言葉からも1年生全員が一丸となって一生懸命取り組んだことが分かる。いろいろな苦悩を乗り越え完成した装飾はさぞかし素晴らしいものだろう。是非たくさんの人に彼らの努力の結晶を見てほしい。そして三田祭当日、まだ初々しいハッピ姿でキャンパス内を駆け回る1年生たちの勇姿に期待しよう。