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塾生インタビュー #43 [07/06/18]
■OVAL Beijing2007 実行委員長
吉本雅人さん(経済学部2年)

 OVALという国際ビジネスコンテストをあなたは知っているだろうか。日中韓の学生たちが集い、互いに交流し議論をぶつけあい、一つのビジネスプランを構築するという、国境を越えたイベント。今年で第五回目を迎えるこのイベント。 我々は去年に引き続き(注1)、今期実行委員長を務める吉本さんにコンテストについて話を伺い、彼の熱い思いにふれた。近年日中韓での交流は急速に進みつつあるが、まだまだ困難も多く、道のりは楽ではないといわれている。東アジアの将来はどう変わっていくのか?

注1
去年のインタビューは、学生団体WAAVが主催する二つのビジネスコンテスト、OVALとKINGの実行委員長二人にインタビューを行った。記事はこちら↓
この夏、ビジネスコンテストに挑戦してみませんか



■日中韓の学生から、よりよい東アジアへ

まず、コンテストについてお伺いします。

―OVALのコンテストは日中韓でやっていらっしゃいますが、日中韓で行う意味とはなんでしょうか?
OVALは2004年に設立されたのですが、ちょうどその当時の東アジアは外交情勢も経済も非常に悪化していました。それは大人の世界の問題で、それに対して僕らが何かを変えることはできないですが、ただ、将来僕らの世代が社会に出たときに、東アジア、特に日中韓を中心とした問題を解決することができるのではないか、とOVALは考えたのです。東アジアは“ASEANプラス日中韓”とよく言われるように、三国のリーダーシップが非常に重要だとされていますよね。コンテストを通じた日中韓での交流やネットワークを通して、これからの新しい東アジアをずっとよいものにできるのではないのかと、いわば草の根的な活動をしているのです。

―OVAL参加のメリットとはなんでしょう?参加者に強調したいポイントを教えてください。
コンテストに参加してくる中韓の学生は非常にレベルが高く、今後の東アジアのリーダーになりうると思います。柔軟な姿勢を持てる学生のうちから、彼らと共に話し合ったり物事を考えたりして世界観を広げることは、ものすごく貴重な経験だと思います。特に世界を相手にする仕事をしたい、世界を舞台に行動したい、という方にはぜひ参加してほしいです。

■現地での五泊六日間

―コンテストの流れはどのようなものですか?
毎年若干違うので、今年の例で説明します。 まず日本国内で一泊二日のミニイベントみたいなのを設け、そこで簡単に中国の文化ややマーケットの動向などについての勉強会を行います。 北京の会場についてから、まずはじめの二日間は、簡単な観光、そして現地の教授やコンサルタントから、マーケットや文化についての簡単な中国に関するガイダンスを受けます。 その後、五泊六日の合宿が開幕します。まず初日はケーステーマの発表を行います。このケーステーマとは僕らOVALが用意した非常に枠の広い、 各グループ共通のテーマで、コンテスト初日に与えます。例えば去年は『都内で一人暮らしの人をターゲットとした新しいビジネスプランを構築せよ』というものでした。このテーマに沿ったプランを考えることが参加者たちの課題です。期間中には、フィールドワークとしてどういったマーケットがあるかを実際に行って確かめてみたり、現地で活動されているコンサルタントの方にプランを見ていただいたりします。各チームで何度もプランニングを練り、最終日にプレゼーテンションというかたちで、チームごとの優劣を競い合います。 コンテスト中の使用言語は全て英語です。

■英語力、そして広い興味領域

―やはりビジネスコンテストなので経済や商学部の学生が多いのでしょうか?
若干多いかもしれません。ただ、これはコンテストの最初のコンセプトの部分の話になるのですが、最終的に目指すところは、僕らの世代が世界に出たときに東アジア(の発展)に貢献するというものです。ビジネスとはあくまでツールであって、OVALとしては「日中韓の学生が妥協を許さないディスカッションで、考えること・話し合うことができるような場所」を目指しています。ですから幅広い学問分野からの学生を募集しています。

―OVALのビジネスコンテストにはどのような学生が多く集まりますか?
まず英語力が非常に高く、その上で国際的な舞台に非常に興味がある方が多いです。それから自分から何か進んで活動しようとするという方も多いですね。学生団体の活動やゼミに熱心に参加している方など、英語というベースは勿論のこと、自分の独自の世界を持ち、その活動を一生懸命やっている方が多いです。ですから皆が集まったときには、個性豊かですし非常に興味領域も広いです。

■日中韓の輪の広がり

―参加者の国民性を感じることはありますか?
中国人は自分からリーダーシップを取ろうとする方が多いですね。プレゼンテーションなどでは、中国人が率先的にリーダーシップをとって、チームをまとめあげていこうということが多いですね。日本人もその傾向があると思います。一方韓国人というのは、日中に比べるとリーダーシップをとることはそんなに多くはないように感じます。彼らは非常にモチベーションが高く、雰囲気が明るいです。その明るさでもってチームのマスコットキャラクターになりうる学生が非常に多かったりするのです。それぞれもちろん個人差はありますが、全体を通してみるとそのような印象をうけます。

―他者は鏡といいますが、異なる国籍を持つ人たちの中にいて、日本人らしさに気づくことはありますか?
僕は人類は皆同じではないかと思うので、あまり意識はしていないのですが、日本人は大人しめですね。活発に発表していくというよりも、冷静に物事を見つめて多角的にやっていこうとするのが、日本人の特徴なのかな、というふうに感じます。

―英語を使うということで、どこまで深く理解できるのか、気になります。例えばけんかになったりすることもありますか?
もちろん議論している中でヒートアップすることもあります。ただ議論をしているうちに、おのずと日中韓のそれぞれのポジションがチームの中で出来てくるそうです。例えば、強く意見をぶつけあう二人をみて、残りの一人が自分はチームのムードメーカーになって議論を和やかにしていこうとしたりします。プランニングの中でも、私はマーケティングが得意だから、マーケティングというポジションをとっている、彼は財務が得意だから会計をしている、というように役割分担ができてくるそうです。これはOVALのすごくいい特徴だと思います。

―コンテストが終わった後に、参加者同士の親睦はどれほど深まっているのでしょうか?
参加者同士でも、スタッフ間でも、確実に人の輪・ネットワークが作られてきていると思います。先日聞いた話では、コンテスト終了後に参加者同士が韓国に行き、向こうの参加者たちと朝まで語り明かしたそうです。また僕らスタッフも、この前韓国に行った際にとても暖かく迎えてもらい、国を越えたつながりを実感しました。

■きっかけは、高校時代の日韓交流

次に、吉本さん自身について聞かせてください。

―OVALに参加した動機は何だったのでしょうか?

僕は内部の志木高の出身で、高校時代は体育会で弓道をやっていました。高3の夏頃に引退したのですが、そのときに興味領域というものが弓道以外にないなということに気づき、ものすごく虚しくなったのです。その頃にちょうど友達に誘われて、「日韓高校生交流キャンプ(注2)」というイベントに参加し、そこで価値観がかなり大きく動かされました。会話をしているとき、日本人同士だとお互いに共通している前提部分のようなものがあるように思うのですが、韓国人とだとそれが全然なかったのです。ナショナリティーが違うこと、それからちょっとした考え方の違いでも僕にとっては非常に新鮮でした。それでそこからもっと韓国を知りたいと思ったのです。高校を卒業した頃に、これからは経験する側から活動する側にまわりたいなと思ったのです。自分が気づいた韓国の東アジアに対する前向きな姿勢などを、もっと他の人たちにも知ってもらいたくなりました。そんな自分の考えていたことを、コンテストという一つの形式をとって実現できるのがOVALでした。

■外へのOVALの顔として、内でのファシリテーターとして

―実行委員長の仕事について教えてください。
基本的には団体の顔として活動しています。こういうメディアのインタビューや、渉外、第一線の企業の方にOVALをPRするときは、僕ともう一人渉外局という営業部隊のトップとで中心になって行っています。自分たちがどういう思いでOVALを動かし、何をしているのかを伝えるのが、実行委員長の仕事です。 それからOVALの中では、みんなをまとめるファシリテーターとしての役割があります。OVALの活動は局ごとの動きがメインになっています。例えば営業を行っている渉外局、コンテストのお題を考える頭を使う班、とそれぞれが別の仕事を受け持っています。従って彼らが独自に動くと、まだ局間の連絡体系がしっかりしていないので、どうしてもセクショナリズムに陥りやすくなるのです。局ごとに違う意見を持っている場合、それをぶつけ合いながらもスムーズに一つのコミッションに向けていくために、局ごとの架け橋となってコミュニケーションをどんどん進めていくことがとても重要です。

―これまでの活動で苦労したことはありますか?
沢山ありますが、一つは企業の方に厳しいことを言われるときです。もちろん応援してくださる方もいますが、「それで本当に社会が変えられるのか」、「学生の活動が社会にいい影響を与えられるのか」、「矮小な学生一人がそんなことをやっても意味がないんじゃないか」と言われてしまうことも、時にはあります。それから、もう一つは代表としての責任の重さです。一つひとつの渉外が成功するかどうかは全部自分にかかっているので、その分みんなからの期待と責任の重みがあります。

―活動の中での印象的な思い出はありますか?
すごく色々ありますね。まず国内でいえば、協賛金関連である企業の方と話していたときのことです。食事をしていて、ものすごく東アジアの話で盛り上がっていたのです。盛り上がって盛り上がって、そして食事が終わった後に、その方が「じゃあ今日はすごく面白かったから、本来10万円の協賛だったんだけど、30万円あげるよ」と、出資金を三倍にしてくださったのです。単純に嬉しかっただけではなく、同時に自分の渉外の活動の責任を改めて感じさせられた出来事でした。 もう一つ国外の話では、3月くらいに韓国に旅行に行ってOVALの韓国のメンバーと話をしたときのことです。彼らが前向きな姿勢で同じようなマインドをもってOVALっていうのをやろうとしていて。国も文化も超えて、同世代の学生が自分たちと共通の意識を持っていたことが、本当に嬉しかったです。

―吉本さんの意識や内面的なもので、OVAL運営に参加して変化したものはありますか?
僕は、日韓高校生交流キャンプの経験から、ずっと一貫して発信する側にまわりたいと思ってきました。実行委員長になってそれを伝える機会がかなり増えてきたのですが、近頃になって、自分がそれまで結果が見えないまま盲目的にやってきたことが無駄ではなかったことを感じられるようになりました。まず、自分の発信したいことをしっかり聞いてくれる学生がいるということを知ることができましたし、それから去年の大会など、参加者を見ていると、本当にこの人たちは将来東アジアのリーダーとなって東アジアを変えていける、これからの東アジアをきっと後押ししてくれる、という思いを抱くようになってきました。それによって僕のモチベーションもさらに上がりましたね。

■一つの大舞台、将来へのOVAL

―今後の目標について教えてください。
短期的なものでいえば、やっぱりもっと多くの学生さんにOVALっていうものを知ってもらいたいです。たとえ東アジア自体に興味がなくても、やはりOVALは一つの大きな舞台になると思います。国内にせよ国外にせよ、このコンテストでは、おそらくそれまで見たことのなかったような学生たちとの交流を経験することができるのですから。 将来的にはもっとOVALを拡大させていきたいです。学生たちにOVALというプラットフォームを利用してもらって、もっと横の広がりや上下のつながりを増やしてほしいです。そして自分たちは学生たちがどんどん国外・国内でのイベントを上手く利用できるように運営していきたいです。東アジアというフィールドでの自己実現を促していくことのできるような、そういうOVALでありたいです。
―ありがとうございました。

関連リンク

●OVAL
http://www.oval-official.org/
●学生シンクタンク WAAV
http://www.waav.org/index2.htm


取材 山下ちひろ・後藤覚



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