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塾生インタビュー #38
■平成17年度塾長賞受賞
 浮津弘康さん(総4)
平成17年度塾長賞受賞 浮津弘康さん

SIVアントレプレナー・ラボラトリー主催のSIV Business Plan Contest 2004にてキャップカットプロジェクトでGold Awardを受賞、"Inaugural Asian I2P Competition"(アジア大会)にて2位入賞と快進撃を続け、テキサス大学のTechnology Entrepreneurship Society(TES)が主催する"Idea to Product International Competition"で見事3位入賞を果たした浮津さん。また、浮津さんは「ペットボトルリサイクルの自動化装置の開発」に功績を残しているとして、塾長賞を受賞した。
TESは技術と起業の組み合わせを支援する大学の組織で、今コンテストは初期段階の技術を対象としたビジネスプランコンテストである。世界に挑戦した浮津さんのキャップカットプロジェクトや彼の生き方について語ってもらった。



■世界でも高い評価を得た、キャップカットプロジェクトとは

―キャップカットプロジェクトを思いつくに至った経緯を教えてください。
キャップカットプロジェクトの着想に関しては、高校時代まで遡ってお話します。僕は、もともと高専に通っていました。そこで、いろいろとものづくりなどに触れていたのです。ゆとり教育の先駆けみたいなもので創造演習っていう授業があったのですね。その創造演習は自分たちが好きなことを一つ選んで、それをまとめて発表しないといけないっていうものでした。それがキャップカットプロジェクトを始めていくきっかけになっています。
当時ペットボトルが巷で流行っていて、若者がペットボトルを持ち歩くっていう現象をメディアが取り上げていたのです。ペットボトルは何で出来ているのかという素朴な疑問から始まって、最終的にはペットボトルが実際にリサイクルされていると知ったのです。
そのリサイクルされていく中にはいろいろな工程があって、まず市民から排出されたペットボトルは市町村が集めます。その後に、市町村がペットボトルのキャップとラベルをはずしてリサイクル施設に運ぶのだけど、実際に市町村が運営している施設を見学したときに、大量のペットボトルのキャップとラベルを手作業ではずしていることに問題意識を感じました。そこで、これを何か手に代わる新しいものでできないかなって考えたのがそもそものきっかけです。
高専にいる間に、創造演習の授業を経て創造製作っていう授業が始まりました。これは自分が何か好きなものをつくるっていう授業です。創造演習でキャップの取り外しが手作業で行われていると知ったので、せっかくだからそれに代わるものを作れないかなって思ったのが装置を作ったきっかけでした。

平成17年度塾長賞受賞 浮津弘康さん

▲浮津さんが開発中のキャップカットの機械
写真は最新版の一つ前の型

―キャップカットの装置を使うと具体的にどんな効果がありますか。
市町村が運営する施設ではペットボトルのキャップの部分とラベルの部分が手作業で外されているのですけど、これを自動的に取り外すような装置です。現在この市町村で運営されている施設では最低2人の従業員を必要としているのですが、僕の作った装置を使うことによって、一人でも十分な作業能力を果たし、かつ作業効率を上げることができるようになります。
今このペットボトルのリサイクルは費用がかかるということが問題になっているのですが、その一番の根底にあるのが市町村で運営している施設で従業員を雇って手作業で外すという効率悪い作業をやっているから、コストがどうしても最終的に高くなるっていう問題があります。その問題を解決できればいいな、と思っています。

―ペットボトルに興味を持つ以前から環境問題への強い関心があったのですか?
もともと高専にいたのが2000年です。その頃、これからは環境問題がくるんじゃないかと世間一般で言われていた時期で、環境問題で何かできないかと思ったのがきっかけです。

■コンテストや大会について

―まずは、大会に参加するにいたった経緯を教えてください。
参加の経緯は、昨年の2月に行われたSIV(*1)のビジネスプランコンテストに出たのがきっかけです。そちらでゴールドアワード賞を受賞したことがきっかけで、"Inaugural Asian I2P Competition"(*2)(アジア大会)に参加することになりました。アジア大会で運よく2位に入賞することができて、昨年11月に行われた世界大会に出るにいたりました。

*1:SIV
SFC Incubation Village研究コンソーシアムの略
▼SIVホームページ http://www.siv.ne.jp/
▼慶應ジャーナル - 塾員インタビュー SIV事務局長 牧兼充さん
http://www.keio-j.com/interview/37siv.html

*2:I2P
アメリカテキサス州で行われるビジネスプランコンテストの世界大会
▼The Idea to Product International Competition
http://www.ideatoproduct.org/int/index.cfm

―世界大会の様子を聞かせてください。
まず、その大会が行われた場所がテキサス大学で、そのテキサス大学のTESというところが大会を主催していたこともあり、テキサス大学の中でプレゼンテーションをしました。世界各国から、アジアからは中国とシンガポールと日本、アメリカからはテキサス大学とかスタンフォード大学とか参加していました。
アジア大会に出てなかったような人がたくさん来ていて、そういう人たちといろいろコミュニケーションをしたりしました。僕たち以外のチームでは、院生や博士がほとんどで、そういう海外の人たちと普段はしゃべることがないので、彼らと交流することによって、すごく良い刺激を受けたりしました。
大会の様子自体ですが、自分たちが考えているアイディアを一人でも多くの人たちに伝えようっていう気合をすごく感じて、常に自分たちが考えているものが世の中にこう役立つのだっていうのを主張する雰囲気がありました。

―日本の大会と違うな、と感じたことなどはありましたか?
日本のコンテストは学部生が中心で、博士や修士の学生はほとんどいません。でも、海外の学生は社会経験をした上で大学に入り直して、自分で何か起業しようという意識があります。

―入賞したときの気持ちを教えてください。
アジア大会で入賞したこと自体、本当に「まさか」っていう感じでした。世界大会は行けただけでも良い経験になるだろうし、別に賞に入る、入らないっていうのは問題にしていなかったのです。けれど、入賞した時は自分たちが行っていることが色々な国の人たちに認められたんだっていう思いがして嬉しかったですね。

―大会で特に苦労したことは何ですか?
アジア大会、世界大会でも言えるのですけど、やっぱり英語です。共通言語は英語、英語が話せなければ何もならないというような環境だったので。英語が苦手だったので英語っていうハードルがあって、それをどうクリアして行くっていうのが自分の課題でした。

―英語というハードルはどのように乗り越えたのですか?
まず英語っていう部分をどうやって自分で切り抜けたらいいのかってことを考えました。でも、最終的には英語も確かに大事だけれど、それよりもプレゼンテーションの内容や構成を自分ができる範囲でやろうって決めたのですね。多分それが最終的に結果としてよく出せたと思います。

■キャップカットプロジェクトと浮津さんのこれからについて

平成17年度塾長賞受賞 浮津弘康さん

―キャップカットプロジェクトの今後の構想などをお聞かせください。
最終的には装置を実用化して、施設に導入して全国にまたは世界に装置を広めていきたいなと思っています。
ペットボトルというのは日本での需要は割と高いのですけど、使用量としては断然アメリカの方が多くて、日本の使用量はアメリカの10分の1です。だから広い目で見ると、この装置は海外での需要もあると思っています。

―起業したいというようなことを伺ったのですが。
このSFCというキャンパスは問題発見解決型って言われていますよね。もともと高専にいたときから創造演習の授業で自分たちで問題を見つけて解決するということをやっていました。そして、問題解決のための手段としてものづくりだとかベンチャーっていうのがあると思っています。僕はベンチャーは一つの手段であって、起業するためにこのプロジェクトをやっているわけではありません。だから、この装置を広めるための手段として起業を視野に入れています。

―これからの人生計画はありますか?
改めて聞かれると難しいですね(笑)。
僕の今までのキャリアを考えて思うのですが、高専は本来5年で卒業なのですけど、3年で終了して大学を受けたように、大学に進学するって決めたのもある程度のリスクを背負っていることになりますよね。
僕の信念としては、自分がリスクを背負わない限り、人間っていうのは動かないっていうのがあります。大学に進学することもそうでしたし、キャップカットプロジェクトにかかる費用も自分で負担しているのもリスクです。自分自身に課題を課すというか、やりとげるためにはリスクを背負うことを意識しています。

―最後に、塾生に向けて一言メッセージをお願いします。
やっぱり慶應に入って一番良かったと思う点は、いろいろな学生とかOBの方に出会えたことです。特に僕はメンター制度(*3)をとてもいいものだと思っているのですけど、というのはOBの方がまた大学に戻ってきて自分たちの後輩に教えられる文化があるっていうのがやっぱり慶應の一つの特徴だと思っています。
今僕の周りの友達を見ているとせっかくこういう恵まれた環境があるのにそれをフルに利用できてないって思います。なので、できるだけ多くの方々に支援していただく形で、より多くの学生が、多くのOBの方々、社会の人たちと関わっていくことが必要なんじゃないかなと思います。

*3:メンター制度
学生の新規事業立ち上げなどの際に、支援を行う主旨で設立された三田会「メンター三田会」による活動のこと
▼塾員インタビュー メンター三田会 副代表 森靖孝さん,幹事 鈴木茂男さん
http://www.keio-j.com/interview/42menter.html

―ありがとうございました。


聞き手   平田彩恵
小竹秀明



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