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塾生インタビュー #37
■K-TEC代表
 鈴木隆一さん(理M1)
K-TEC代表・鈴木隆一さん

みなさんK-TECという団体をご存知だろうか。K-TECとはKeio Technology & Entrepreneurship Club の略で、起業をとりまくトピックを中心に話し合う勉強会等を開催している団体だ。数多くのベンチャーが社会に進出し、私たちの目にする機会も多くなってきたため起業に興味を持っている方も多いであろう。その中で実際に起業しようと考え、今から本格的に準備をしている人はどれ位いるだろうか。今回はK-TECを設立し、現在代表として活動され、ご自身も在学中のセンサー関連事業での起業を考えている理工学部応用科学科修士一年の鈴木隆一さんにお話を伺った。

■K-TEC ホームページ http://keio-tec.com/



■K-TECとはどんな団体? 
〜新しいビジネスを生み出すための異分野融合の場〜

―K-TECという組織を設立されたそうですが、どんな団体なのでしょうか?
起業家を目指す塾生を中心に、ベンチャーやビジネスを創出するための異分野融合を実現して大きな価値を生み出そうと集まった学生達の団体です。起業には専門技術、法律、簿記、経営戦略など必要なことが多岐に渡り、キャンパスごとの取り組みでは不十分です。
また、これらの活動を通して貴重な人脈を作る事もメリットになると思います。

―「異分野の融合」というとどんなものが挙げられますか?例があれば教えてください。
「今ある技術を他の分野で効率良く生かす」異分野融合は簡単に言えばこういうことでしょうか。最近人気の出ているアップル社のi-podの部品の一部である樹脂が、元々は自動車の部品であったという事も例の一つですね。自動車産業で積み上げられたノウハウが音楽産業の製品であるi-podに生きているわけです。また、ある技術を実用化するには、技術動向とマーケティング調査を行い、双方が密に連絡をとる必要がありますから、異分野の融合を図っていく必要があると思います。

―慶應義塾の学部全体で「異分野の融合」は現在どの位進んでいると思われますか?
あまり進んでいないと思っています。どこの学部でも状況は同じだと思うのですが、隣のゼミや研究室で何を研究しているのかを詳しく知らないってことはありませんか?大学内での連携が取れていなくて、それぞれの研究室で交流をとる等の横の繋がりがないからだと思います。私は昔、産学連携に携わる会社で働いていたことがあるのですが、他大であれば、「こういう風にやっていこう!」という縛りが慶應にはなく、各教員がやりたいようにやっているという印象を受けます。大学は会社と異なり、自由で自主的な活動が行われるべきだと思うので、このこと自体は非常に良いと思うのですが、それぞれの研究会で交流が取れていないことが欠点としてあるのではないかと思います。これは、慶應義塾全体としても改善の余地があると思っています。K-TECはそうした現状を少しでも自分達の力で良くしていきたいという気持ちがありますね。

―K-TECは異分野融合という観点ではどんな活動ができますか?
異分野融合を実現するためにも、キャンパス間にまたがる組織を草の根的に作っていきたいと考えております。当初は理工学部とSFCが中心になっていましたが、最近は三田の人たちや慶應ビジネススクールの学生も来ております。慶應ビジネススクールの学生は5~10年程度社会経験した社会人学生ですから、彼らの経験を聞くだけでも相当勉強になります。

■慶應での「異分野融合」がK-TECの目標の一つ

K-TEC 鈴木隆一さん

―K-TECを設立することとなったきっかけがあれば教えてください。
直接的なきっかけは、SIV(*1)のネットワーキングセミナーに行ったことです。そこでキャンパス間の連携がとれればもっと自分を成長させられると思い、SIVの牧事務局長と話し意気投合したのです。そしてメンター三田会(*2)の森靖孝さん、鈴木茂男さん、鈴木明さんらにもご協力いただき、設立となりました。最初の勉強会では、SIVのR-STATION(*3)プロジェクトリーダーの高橋拓也さんにプロジェクトについてのディスカッションをお願いいたしました。

*1:SIV
SFCに本部を置くベンチャー支援組織。
参考:塾員インタビュー・SIV事務局長牧兼充さん - 慶應ジャーナル
http://www.keio-j.com/interview/37siv.html

*2:メンター三田会
広い業界の塾員が慶應出身の後輩を教育・指導する「メンター」として活躍する新しい三田会。
参考:塾員インタビュー・メンター三田会副代表森靖孝さん・同幹事鈴木茂男さん - 慶應ジャーナル
http://www.keio-j.com/interview/42menter.html

*3:R-STATION
フィギュアやトレーディングカードといった玩具にICタグを搭載したゲーム用データキャリアを開発し、現実空間での行動と仮想空間でのゲームキャラクターの行動が連動する新しいゲーム性を持ったエンターテインメントシステム
参考:http://www.siv.ne.jp/publication/blog/archives/2004/11/20041101_0538.html

■K-TECの二つの柱 〜専門性の分科会と異分野融合の全体勉強会〜

―現在K-TECにおいての主な活動を教えてください。
大きく分けて2つ、分科会と全体会に分かれて活動をしています。
全体会というのは、一、二ヶ月に一回に開催している会です。副代表の小林を中心に全体会運営委員で運営を行っています。この全体会がK-TECにおいての異分野融合の実践の最初の場ですね。新しく分科会になる候補の案件や、組織の運営の一つであるWEBの広告についてである等、専門性に関わらず集まって会議をするのが全体会である、との位置付けをしています。この勉強会で共通の興味を話し合うこと等を通して分科会に発展させていきます。
分科会では、バイオビジネス分科会、センサー通信分科会、ケータイ分科会等のいくつかの分科会に分かれて、それぞれで研究を進めています。ポイントは分け方がマーケティングや技術などの縦割りではなく、横割りである点です。すなわち、どの分科会にも技術、マーケティング、知的財産など各キャンパスの持つ力が必要になり、異分野融合が必要になるということです。最近学生でベンチャーを起こしたいという人が多くなってきているのですが、ベンチャーを立ち上げるにはこのような横割りの専門性が必ず必要となってきます。たとえば、自動車関連の事業を起こす場合には、自動車事業について知らなければなりません。でも、自動車学部なんてありませんよね(笑)。ですから分科会でこのような横割りの専門性を高め、いずれは起業し実績を出そうというのがK-TECの一番の意図です。また、副代表の殿崎を中心に、分科会間の連携をとれる体制をK-TEC内で作っています。
また、数ヶ月に1度合宿を行っています。前回合宿では、I2P(Idea to Product)世界大会(*4)3位入賞した浮津弘康さんの体験談で盛り上がりました。また、メンター三田会の森さんに経験に基づいた話をしていただきました。

*4:I2P(Idea to Product)世界大会
アメリカテキサス州で行われるビジネスプランコンテストの世界大会
参考:http://www.siv.ne.jp/publication/blog/archives/2005/12/20051205_0101.html

―K-TECは理工学部中心の団体という感じがするんですが、他学部の人は活躍する場があるのでしょうか?
技術力が売りの分科会であっても様々なマーケティングを含めた戦略を立てることに力を入れています。そのためそちらに興味のある文系の方も分科会で一緒にやっていきましょう。また、アイディアやニーズからビジネスを考え、技術ではなく積み重ねによるノウハウを重視したサービス業へ目を向けた分科会(アウトソーシング分科会など)も立ち上がっています。

―では鈴木さん自身が行っている活動があれば教えてください。
僕はK-TECでは代表をやっていますけれども、副代表の和田をはじめ、各キャンパス部長(各キャンパスで核になっている人たち:平田彩恵日吉部長、広瀬大地三田部長、小林靖弘矢上部長、折原龍SFC部長、和田幸子KBS部長)の協力を得て、皆で運営を行っています。
分科会に関しては、センサー通信分科会、ケータイ分科会のリーダーをやっています。

■センサー分野の将来性

K-TEC 鈴木隆一さん

―センサーとは鈴木さんの専門の分野ですね。センサーについてわかり易く説明していただけますか?
これから「センサー」はもっと社会の中で活躍するモノになると思います。今までは何か問題が起きたら人が解決してきました。たとえば、火事が起きたら人が消火器で火を消します。ところが、今後は、例えば火災が起きた時には火災探知機と消火器が繋がっていて、火事が起きたら自動的に消火器が稼動し防いでくれる、といった様なシステムでセンサーが活躍することになると思います。こういう話を一般的にM2M(マシン間通信)(*5)とよびます。ここで重要なのが火災を探知する「センサー」です。M2Mでのキーデバイスが「センサー」だと私は思うのです。また医療介護の面でも患者に何か異常が起きたらすぐ知らせるシステムなど他にもニーズは無数にあります。これらの話を聞くと、技術者っぽい話だと思われるかもしれませんが、マーケット調査などをもっときちんとやりたいと考えているので、むしろ文系の方こそ大歓迎です。そもそも技術とマーケティングのどちらか一方が欠けたら市場に与えるインパクトは限定的なので、それぞれが分かる人が連携していければ望ましいですね。
たとえ将来「起業」するとしても技術だけでは成功できないと僕は考えています。どれだけその事業に付加価値を加えられるか、それが成否の鍵を握っています。だからこそ慶應の力を終結して「異分野の融合」で高い付加価値を加えられる事業を展開していきたいと思っています。

*5:M2M(マシン間通信)
ネットワークに繋がれた機械同士が人間を介在せずに相互に情報交換し、自動的に最適な制御が行われるシステムのこと。泥棒の侵入を知らせる防警報装置、自動販売機の缶コーヒーの在庫切れを知らせる装置などに使われている。

―既存の企業ではなく、自ら起業するという選択肢を選ぶ意義とはどんなところにあるのでしょうか?
既存の企業だと新しく事業を起こすのにしがらみがあり、うまくいかない場合が多いということでしょうか。たとえば、i-podを開発したのは、ソニーなど既存の会社ではなく、門外漢のアップルでした。これは、i-podのようなものはソニーや松下でも開発可能だったが、開発してしまうと自社の製品の売り上げが下がってしまうから、開発できなかったと言われています。こういう事象を理論的に説明した本として、『イノベーションのジレンマ』(*6)という本がオススメです。
逆にベンチャーの場合は意思決定などが早く出来ますし、都合の良いことが多いと考えています。ビジネスモデルが変わる時には、新しくベンチャーを立ち上げ自分達でやった方が効率の良い場合が多々あると思っています。だから僕は自分で掴めるビジネスチャンスが辺りにあるのに、企業に入ることだけが選択肢だけだとは考えるのではなくて、起業することも視野に入れています。

*6:『イノベーションのジレンマ』
クレイトン・クリステンセン著・玉田 俊平太, 伊豆原 弓訳『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき Harvard business school press』 翔泳社刊
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798100234/503-9374514-6171162

■日本におけるベンチャー業界の現状

―ベンチャーの文化が定着しているアメリカ等の海外と日本の違いは何でしょうか?
大学教員が主体になってやっているのが今の日本のベンチャー業界の現状だと思います。ただ教員は忙しいのでベンチャーの運営に全精力を注ぐ余裕はないと思います。日本の学生が社長をやっているのは現段階で規模はそれほど大きくはないですし、数社しかないですね。その一方でアメリカの場合だったら、例えば技術のある学生がコミットしたグーグルは時価総額10兆円です。この値は日本のソニー、日立の時価総額を軽く越える額になります。ベンチャーは大企業とはやり方が違っていますし、グーグルの様なアメリカの企業は組織が根本的に既存の大企業とは違っています。

―今後日本の学生における起業はどのように盛り上げていけば良いとお考えですか?
成功事例を作ること、これに尽きると思います。最近だと、ドリコム(*7)の内藤社長が注目を浴びましたが、そういう事例をもっともっと作っていかなければならない。そのような成功事例を作ることもK-TECの役割だと考えています。

*7:ドリコム
ブログサービスをビジネスの主体とするネット企業。社長の内藤裕紀さんは2000年、京都大学在学中にドリコム社を設立した。
参考:ドリコム社HP http://www.drecom.co.jp/

■最後に 〜慶應生から新しいビジネスを〜

K-TEC 鈴木隆一さん

―最後に代表の鈴木さんからK-TECのアピールをお願いします。
私はK-TECを通して若い大学生が新しいビジネスを創る雰囲気を慶應から作っていきたいと思います。K-TECの魅力を客観的に考えてみると、慶応義塾のOBを始め社長の経験がある方など、実際の社会で活躍されている方々に協力して頂いていますし、しっかりと相談できる環境が整っています。SIVやメンター三田会にも協力して頂いています。最初は少ない人数で始めましたが、会員も既に110名を越え、その内卒業生の塾員の方々が20名近くを占めています。何年後、何十年後に大きくなる様な事業を僕らで作って行きましょう。興味ある方は、info@keio-tec.comまでご連絡ください。よろしくお願いします。

―ありがとうございました。




聞き手   後藤俊介
平田彩恵



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