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塾生インタビュー #34
■HAPP公募企画「夏の夜の夢」 企画責任・脚本・演出担当
 伊礼曜子さん(文4)
HAPP公募企画「夏の夜の夢」企画責任・脚本・演出担当 伊礼曜子さん

新入生歓迎行事を始め、様々な行事が学生や教職員により企画・運営されている日吉行事企画委員会(通称HAPP)の10月の公演に伊礼曜子さん(文学部美学美術史専攻4年)が演出を担当する「夏の夜の夢」が決まった。伊礼曜子さんは『創像工房 in front of.』という演劇サークルに所属し、役者として、サークル代表としての活動を続けてきた演劇人で、今回の舞台では企画責任・脚本・演出に初めて挑戦する。
 今回はそのような伊礼さんに「夏の夜の夢」を公演するにあたっての思い入れや今までの活動など、HAPP公演に関する詳しいお話を伺った。

■慶應義塾大学教養研究センター日吉行事企画委員会(通称HAPP) http://www.hc.keio.ac.jp/happ/



■H.A.P.P.について

 H.A.P.P.(ハップ)とは,"Hiyoshi Arts and Performance Project"の略で、日吉行事企画委員会を称する言葉。日吉の新しい研究棟である「来往舎」の1階の広いスペースを活用した様々なイベントを開いている。各種行事は教職員や学生のボランティアにより企画・運営され、広く地域や社会に開放された参加型行事としても内外から高い評価を受けている。(HAPP公式ホームページ参考)

●慶應義塾大学教養研究センター日吉行事企画委員会(通称HAPP)
http://www.hc.keio.ac.jp/happ/
●慶應ジャーナルに掲載中のHAPP企画関連記事
2004年11月、『幽庭―かすかば―』イベントレポート
http://www.keio-j.com/Event/kasukaba.html
2003年12月、『色即是空』総合プロデューサ内田伸哉さんインタビュー
http://www.keio-j.com/interview/27uchida.html

■作品に「夏の夜の夢」を選んだ理由

夏の夜の夢・ポスター

▲キャンパスに貼られているポスター

―作品の「夏の夜の夢」とはどんな演劇なのでしょう?
 ウィリアム・シェイクスピア原作の喜劇で、アテネの郊外にある妖精の森が主な舞台です。妖精の王の命令でいたずら好きな妖精が恋に悩む若い男女に魔法をかけるんですが、その妖精のちょっとしたまちがいが原因で、若者たちや妖精の王と女王、森に来ていた町の職人たちまで巻き込みながら、恋の勘違いの劇が真夜中の妖精の森で繰り広げられる、こういうお話です。

―「夏の夜の夢」を選んだ理由は何ですか?
 幼い頃に何度か海外の野外劇場で見た「A Midsummer Night's Dream」に特別に思い入れがあります。小学生のころ、アメリカに住んでいた時に初めて観劇して、去年の夏にロンドンを一人で旅行しているときにも偶然、「A Midsummer Night's Dream」の野外劇をやっていたんですね。昔から好きだった演劇を実際に自分で作ってみたかったのが大きな理由ですね。


■企画立案、脚本から演出まで。
伊礼さんの舞台はすでに数ヶ月前から始まっていた。

―伊礼さんは今まで役者として活動されたそうですが、今回はどうして企画を出すことを決心したのですか?
 最近の来往舎のイベントテラスを使用したパフォーマンスの中には西洋古典戯曲を上演したものは少ないです。それで、塾生はもちろんそれ以外の方にも、その面白さ、すばらしさを身近に体験して欲しいと思ったことがきっかけですね。
 特に、HAPP企画のステージである来往舎には入学当初からとても魅力を感じていて、ここで私は「夏の夜の夢」をやりたいと思っていました。天井は吹き抜けですし、窓が全てガラスで出来ていて、開放感があって、私が以前見た舞台の野外の雰囲気に近いんです。来往舎は「夏の夜の夢」の妖精の住む、神秘的な森の空間を再現するのにふさわしい、魅力的な空間だと思います。

―HAPPの選考の過程ではどのような事をやりましたか?
 選考の過程には企画書の提出と面接がありました。
 企画書に関しては昨年から一人で考えていた事を演劇が出来るようにかなり詳細な内容を書いて提出しました。面接では、どういうコンセプトで演劇をやるのか、なぜ来往者を使いたいか、役者の人数は充分揃っているかなどを中心に質問されましたね。

―脚本を書くにあたって工夫をしたことがあれば教えてください。
 シェイクスピアが持たれがちな硬いイメージをなくそうと努力しました。そのため、全体的にコメディー色が強くなるように仕上げました。「ラブコメディー」風と言っても過言ではないですね。台詞自体も、シェイクスピアの演劇を初めて見る人でも楽しみやすいように口語体で自然な会話に心をかけました。
 しかし、詩的な雰囲気のある台詞はシェイクスピアの醍醐味でもあるので、その雰囲気を残すために、登場する妖精たちの台詞だけは若者の言葉とは明らかに違う、詩的な印象を大事にしようと思いました。たとえば、「月の女神が水面にその美しい顔を覗かせる時」。これは台本に実際出てくる妖精の台詞ですが、このように普段耳にしないようなシェイクスピア特有の美しい表現も楽しんで欲しいですね。

伊礼曜子さん

▲HAPP公演「夏の夜の夢」脚本/演出の伊礼曜子さん(文4)

―演出で特に心がけた事はありますか?
 やはり来往舎の構造を最大限に利用した舞台造りを意識し、また、シェイクスピアの作品である「夏の夜の夢」の美しい雰囲気を残しながら、現代の若い人にも共感してもらえるような構成にすることを目標にしました。
 しかし、役者は以前からやっていましたが、今回は音響や照明など、自分の知らないセクションにも担当する事になったので、この兼ね合いが難しいと感じています。演出者は、役者の動きや舞台を変える照明の変化など、自分の作るイメージをそれぞれの担当者にうまく言葉で伝えなければならないので、そこが一番苦労している部分ですね。

―リーダーシップをとっていかなくてはならない立場だと思いますが、気をつけていることはありますか?
 演劇サークルの代表も務めていたんですが、私は元々みんなとわいわい楽しくやっていく中でまとめていく方で、率先してみんなを引っ張っていくという感じではなかったです。でも必要な時には頑張ってやっていきたいと思っていますし、参加者全員が気持ちよく本番を迎えられるよう、一丸となって活動していけるような環境つくりをしているつもりです。

―企画責任者として演出・脚本から細かい仕事まで多岐に渡り、苦労することも多いと思いますが。
 現在、脚本はほぼ完成していて、稽古場で基礎練習、即興劇(エチュード)などの練習をしている段階です。それで、メンバーと脚本を読んでいく内に手直しをすることがあるんですが、それがなかなか難しいと感じています。脚本を書いている時には気づかなかった点を発見したり、実際声を出して読んでみるとまったく違う印象をうけたり。芝居の根本ですから慎重に作り上げていかないといけないな、と改めて感じました。

■ずばり「演劇の魅力」とは?

―演劇をやっていてよかったと思うことはありますか?
 始めは、私たち役者もお客さんも緊張しているんですが、芝居が進むにつれて緊張が解れていくと共に、お客さんがどんどん芝居に惹き込まれ、徐々にお客さんと役者たちが融合していく、そんな芝居の空間自体が一つになっていく瞬間が好きです。実際体験した事のない人にはなんとも言えない感覚ですね。言葉では表現できないような。
 他にも、演劇というのはチームワークで作り上げていくものですから、高校の学園祭が終わった時のような、今までの苦労が報われる様な達成感を味わえます。本番まで長い間集中していますから終わった後の開放感も好きです。「やってやったぞ!」みたいな(笑)。

―脚本・演出担当者として演劇に携わることの魅力(役者の時とはまた別な)があれば教えてください。
 役者の時は、自分の役をメインに掘り下げ、脚本に沿ってキャラクターを作り上げていくんですが、脚本・演出の場合は登場人物全員のキャラクターを自分のイメージ通りに操れるのが面白いです。実際稽古をし始め、役者たちの意見を聞くことでその役のキャラクターのい性格が変更されたりするのですが、それもどんどんいい方向に変わっていくことばかりなので、それもそれで面白いですね、「あぁ、こういう考え方もあるんだ!」といった具合に。自分が書いたキャラクターが他の人に受け入れられ、芝居中の人物として生きている証拠でもありますし。

■演劇との出会い、そして自らが演劇の舞台に飛び込む

練習風景

▲会場である来往者イベントテラスでの練習風景

―いつから演劇に興味をもったんでしょうか?
 母が画家だった影響もありますが、実は小学校2年生の時に、美術分野において子供の想像力を育てることを目標としている教育であるシュタイナー教育を受けるために渡米しました。そこでは子供が自分で自分をしっかりとらえ、一番深い内部の欲求から、自覚的に行動することが重要だとされていて、教科書を使わずに先生から教わった内容を、表紙から中の文章、絵まで全て自分の手で作り上げていくような事をやります。ここで、自分から何かを表現するということを幼い頃からの教育で経験してきました。演劇はまさしく表現ですから、それも今に生きているのかもしれませんね。
 演劇との出会いもアメリカに住んでいた頃で、私が小学校5年生の時に見た上級生による「A Midsummer Night's Dream」があまりにも鮮烈で、今思うとあれ以来無意識に演劇という世界に興味を持っていたんだと思います。そして本格的に演劇の世界に入ったのは大学のサークルに入部したときです。でも当時は宣伝美術としてチラシやチケットのデザインをしたいと思っていたので、まさか自分が企画責任までになるとは思ってもいませんでしたね(笑)

■「夏の夜の夢」を見に来てくれる方々にメッセージ

―最後に「夏の夜の夢」を見に来る方々にメッセージをお願いします。
 学生の方は授業後にふらっと立ち寄る感覚で来てくれると嬉しいです。そして笑いに来てください(笑)演劇に興味をあまり持たない人でもふらっと立ち寄ってもらって「あぁ、こういうのがシェイクスピアの世界なんだ。」と知っていただけたら嬉しいです。
 学生以外の方にも是非来てほしいですね。日吉の商店街の方々にも宣伝させて頂いていますし、他に慶應ジャーナルを読んでこの公演を知った人にも、これは何かの出会いだと思って日吉に足を運んで欲しいです。シェイクスピアを読んだことがなくても充分楽しめる内容になっていますので!

HAPP公募企画「夏の夜の夢」

公演日時:2005年10月4日(火)5日(水): 両日共に18時開場、18時30分開演
公演場所:慶應義塾大学日吉キャンパス来往舎イベントテラス
入場料:無料
お問合せ先
TEL:090-7287-9309
E-mail: midsummernight(アットマーク)hotmail.com
(迷惑メール対策のため表記を崩しております。
「(アットマーク)」のところには「@」を置き換えてください。)
URL: http://www.hc.keio.ac.jp/happ/




取材   後藤俊介



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