日本で初めて宇宙開発が行われて約50年の年月が経とうとしている。現在でも宇宙開発に関する研究や政策などが行われており、最近ではH2Aロケット打ち上げの成功や宇宙飛行士野口聡一さんのディスカバリー号飛行からの帰還などめざましい進歩を遂げており、宇宙旅行も現実へと近づいてきている。しかし、我々はこの宇宙開発を難しくて遠い存在だと感じてはいないだろうか。そんな中、この宇宙開発について議論している学生団体がある。その名も「宇宙開発フォーラム実行委員会」。3年前に発足され、現在まで政策・ビジネス・法律・技術について研究会を開いて議論を行っており、今年の9月には「宇宙開発フォーラム2005」という宇宙開発を取り上げたイベントを行う予定だ。そこで、彼らがどんな活動をしているか、どんなイベントが行われるのか、宇宙開発に対する想いなどを聞いてみた。
■宇宙開発フォーラム実行委員会
http://www.sdfec.org/
―宇宙開発フォーラムはどのような経緯で設立されたのですか?
宇宙開発フォーラム(SDF)が設立されたのは3年前の2002年の11月です。初代代表が元々政策立案コンテストGEIL(学生シンクタンクWAAVが主催)の運営をしていたのですが、彼がIAC(国際宇宙会議)という海外の宇宙開発に関する学会の無料派遣プログラムに参加して、宇宙開発を文系的な方針で研究してみるのも面白いかなと思い、仲間に呼びかけて始まったというのが設立の経緯ですね。
―具体的にどういった活動をしているのですか?
大きく分けて2つあって、一つはフォーラムの準備・運営に関する活動です。毎年9月に、お台場にある(宇宙飛行士の毛利衛さんが館長をされている)日本科学未来館でイベントをやっているのですが、今年は2日間のイベントでいろんなセミナーや学生が参加するワークショップの企画を行っています。もう一つは普段やっている研究会活動で、ミーティングと一緒に代々木のオリンピックセンターでやっていまして、政策・ビジネス・法律・技術の研究会を行っています。基本的にはメンバー内で行うのですが、来たいという方がいらっしゃれば参加していただいています。フォーラムで参加者を募っているという形ですね。
―宇宙開発フォーラムの実行委員になったきっかけは何ですか?
私は大学1年生の冬に国際学生シンポジウム(毎年12月に開かれる学生ディスカッションイベント)の宇宙開発分科会に参加して、そのときのコーディネーターが池澤さんで、元々大学で宇宙法の研究をしていたのですが、池澤さんもSFCの宇宙法のゼミに来るようになって、成り行きで入った感じです(笑)(渡邉)
僕も渡邉さんが言っていた国際学生シンポジウムで宇宙開発分科会のコーディネーターのチーフをやっていました。その関係でいろいろな宇宙開発に関するイベントとか勉強会とかに顔を出していたのですけれども、その中でも2003年夏に開かれた第1回の宇宙開発フォーラムに参加して、国際学生シンポジウムが12月に終わった後も宇宙開発フォーラムの実行委員としてやっていこうと思い、今に至る感じですね。宇宙開発自体はここまで深く関わるとは思いませんでした。元々政治学科なので政治学の勉強をしていきたいと思ったのですが、一つの政治学・政策として宇宙開発も面白い分野であるかなと思いました。(池澤)
―宇宙開発フォーラムの実行委員になってよかったことは何ですか?
私は大学で宇宙法という部分から宇宙開発というものを見ているのですが、その大学のゼミだけでは理系の人とかと宇宙開発について議論する機会があまりないので、そういう意味で違う方面から宇宙開発を知っている人と話をする機会ができてよかったです。宇宙開発をやろうという人があまりいないので(笑)、同じ人たち同士の仲間意識ができました。(渡邉)
僕の場合は、フィールドの幅が広がったということが言えますね。僕は元々文系で高校のときも理系の勉強は好きではなく今の学科を選んだんですが、そのような自分が選択しなかった進路に進んだ人と話す機会があるというのが一つあると思います。NASAやJAXAの人のように研究・実務の経験のある人と話す機会が多くて、なおかつ宇宙開発は狭い業界のため、学生であっても一人前の仲間として扱ってくれる分野であるので、学生という身でありながらも勉強させてもらえて得られる部分は大きいですね。(池澤)
―宇宙開発フォーラムの実行委員の方にはどんな方がいらっしゃるのですか?
文理・男女比ともに半々くらいですね。理系の人は宇宙開発の分野や研究の方に就きたいけれど、そういった中で自分として+αとなる部分をSDFで身につけたいと考えている人が多いですね。文系の場合、割りと宇宙開発が好きという人もいますが、ちょっと変わったことがやりたいとか、法律とかビジネスとかも勉強したいけどどういった形で勉強しようかと悩んでいるときに、SDFがいろいろと紹介して「面白いかな」と好奇心を持ち始めて入る人が多く、本格的に勉強しようとしますね。あるいは、サークルの仲間だけでなく、いろいろ外の人と関わって体験を通じてやりがいを感じる人が多いですね。ただ宇宙開発という分野だけでなくて、弁護士を目指して現在ロースクールに通っている先輩も実際にいるので、そういう先輩を見て影響を受けている人も多いですね。先輩の進路もいろいろですし、それを見て入ってくる人もいろいろですね。
―「宇宙開発」と聞きますと、理系の方が多いというイメージがあるのですが、実際にそうなのでしょうか?
実際に「宇宙開発」という業界全体で見ると基本的に理系の割合が9割5分くらいですね。工学の分野で見ますと、宇宙開発という分野は花形なので、人気の高い分野です。一般には、「宇宙開発」と言うと文系の人はあまり関係ないかなというイメージが強いですね。しかし、「宇宙開発」に限らず他の分野についても言えることなのですが、理系あるいは文系の片方だけでできることはないので、ビジネスとしてどうやって利益を上げるか、あるいはどんなマーケットがあってそのマーケットに対してどういうアプローチをしていくのかとかという研究が宇宙開発にも関係しますし、これからそういった人たちが必要だという話にもなっています。宇宙開発の業界の中ではそういう話になっているのですが、それを一般の社会に向けて理解してもらったり、あるいはそういう必要性を話してもらえるようになるということがSDFの課題で、今後の宇宙業界の課題でもありますね。幅広い分野なので、文系でも活躍できる人はいると思います。
―今年の9月18、19日と二日にかけて行われる「宇宙開発フォーラム2005」というイベントではどのような企画が行われるのですか?
大きく分けて3つありますね。1つ目は学生が主体的に参加できるワークショップで、政策・ビジネス・法律と技術の4つに分かれています。専門家の方に最初にプレゼンしてもらって、それに関するグループワークをしてもらい、最後に各グループでプレゼンテーションをしてもらうという形になっています。例えば、宇宙ビジネスのワークショップでは、3年後くらいに宇宙旅行が宇宙ビジネスとして確立すると言われているのですが、それをどうやってビジネスとして落とし込んでいくかというワークショップをやろうと思っています。講師の方としては、実際に宇宙旅行の代理店をやっている人をお呼びする予定です。2つ目は、社会人の専門家の方に講演会とパネルディスカッションです。例えば、東京大学で小型衛星の研究をしている中須賀研究室という、日本の大学研究室として初めて人工衛星を作って打ち上げたところで、実際に現在も衛星が地球の周りをグルグルと回っております。その中須賀先生に講演をしていただく予定です。パネルディスカッションの方はJAXAに勤めている方や、僕のゼミの宇宙法について研究している青木節子先生(SFC)にお越しいただこうと考えています。
3つ目は、立食パーティ形式のレセプションで、学生と社会人がともに交流をしていくという場です。この3つがイベントの主な内容ですね。
―このイベントを通して、参加者に伝えたいことは何ですか?
「宇宙開発」には、大きく分けて2つのイメージがあります。1つは夢のある分野だなということで、もう1つは難しい分野だなということかなと思います。あんまり「宇宙開発」に詳しくない人でもそういうイメージを持っている人が多いと思います。それは両方とも間違ってはいないのですが、SDFの問題意識としては、宇宙開発は本来夢のある分野だというイメージを与え続けられるように、難しい分野というものを取り組んでいかなければならないと思いますし、それが伝わるようにいろいろと活動していかなければならないと思いますね。「宇宙開発」の見えにくい部分ではあるのですが、ビジネス・政策・法律といった分野を紹介していって、「面白い分野なんだよ」ということを伝えられればなと思います。「自分にはほとんど関係ない分野だな」というイメージが特に文系の人に多いかなと思うのですが、実はそうではなくてどんな分野からでも関われるということと割と面白いということを感じて欲しいですね。
―それは文系の方にも「宇宙開発」という分野の面白さを知っていただきたいということですか?
そうですね。自分と遠い世界だと思っている人にもこういうイベントに参加してもらって、同じ問題意識を持っている人がこれだけいるということを感じてもらって、そこでできたコネクションを使ってもらって宇宙開発にコミットする人が増えていけばいいなと思います。参加する学生や社会人もいろいろな人が多いのですが、そういった人と交流するということにも意味があるのかなと思います。
―宇宙開発に興味を持ち始めたきっかけは何ですか?
―宇宙開発に興味を持ち始めたきっかけは何ですか?
私は映画「アルマゲドン」を見て(笑)、「宇宙ってすごいな」と思い、そういう社会で過ごしてみたいなと感じたことが宇宙に興味を持ち出したきっかけです。最初は宇宙と聞くと、理系の人が活躍する場所だというイメージしかなくて、工学系の勉強をしようかと思ったのですが、宇宙に文系が活躍できる法律という分野があるということを知って、法律面から宇宙をやってみようと思ったことが宇宙開発に興味を持ったきっかけです。誰もやっていないというのが売りだと思いますし、自分が何かをやれば何かが残せると思ったので、大学ではそういう世界に入ってみました。(渡邉)
私は毛利さんのスペースシャトルのテレビを見ていいなと感じていたことが一つあります。もう一つは、私はジャーナリズムに興味があって、そういった世界で仕事をしていきたいと思っていました。立花隆(評論家)には、『宇宙からの帰還』など宇宙開発に関する著書もたくさんあるんですが、そういった本を読んだりもしていました。本格的に宇宙開発を勉強し始めたきっかけは、一つは人と同じようなことをしたくないというのがあったということですね。もう一つは、政治学の勉強をしたいと思ってその題材として何がいいかと考えたのですが、「宇宙開発」は元々政治的な分野だったのですが、そんなに研究されてないのでとりあえず手をつけたら何か独創的なものを生み出せますし、ダイナミックな分野でありますので、いろいろ手をつけたら何か新しいことが発見できて面白いかなと思ったということですね。(池澤)
―将来はどんなことをしていきたいですか?
私は日本の宇宙開発に関わっていきたいですね。それは強いては世界全体の宇宙開発に関わっていきたくて、自分の今いる日本という国がどう宇宙開発をしていけばよいかとい考えるような仕事をしていきたいですね。(渡邉)
来年から出版社で編集の仕事をすることになるのですが、元々報道とかジャーナリズムの世界に興味があって、そういう仕事をやっていきたいと思いました。そういった中で宇宙も含めていろいろな広い分野を報道していきたいなと思います。宇宙以外でも、政治とか社会といった問題をカバーしていきたいです。その中でも宇宙開発という変わった分野で得られた経験というのは、いろんな問題の主題を明確化したり、いろんな資料を漁ったり、いろんな人と交流したりしてそこからいろいろな新しい知識を得ていくことが挙げられますね。そういう経験は宇宙に限らず、いろいろな分野で活躍していく上では糧になるのかなと思います。僕が尊敬しているジャーナリストで立花隆という方がいらっしゃるのですが、彼は宇宙開発に限らず政治や医療などいろいろな分野で活躍していますので、僕も宇宙を含めていろいろなことを報道していきたいなと考えています。(池澤)
http://www.sdfec.org/
応募締め切り:9月15日(木)
日時:2005年9月18日(日)10:00〜20:00、19日(月)10:00〜19:00
場所:日本科学未来館(東京・お台場)
→アクセス(http://www.miraikan.jst.go.jp/access/access.html)
費用:無料(ただし、レセプション参加費のみ学生2000円/一般4000円)
プログラム詳細:http://www.sdfec.org/modules/xfsection/article.php?articleid=34
申し込みページ:http://www.sdfec.org/modules/xfsection/article.php?articleid=36
後援:独立行政法人航空宇宙航空研究開発機構(JAXA)
協力:日本科学未来館、財団法人日本宇宙フォーラム
協賛:三井物産エアロスペース株式会社、株式会社ファクトリアル、日本衛星ビジネス協会、株式会社I.H.I.エアロスペース
協力企業:日立マクセル株式会社、株式会社リクルート