SIVという組織をご存知だろうか?SFC Incubation Village研究コンソーシアムの略で,SFC(湘南藤沢キャンパス)を中心に,ベンチャー企業の支援及び,ベンチャー関連教育を行っている組織である。SFCをアジアのシリコンバレーにという壮大な目標を目指しつつ,様々な活動を行っているSIV事務局長であり,設立当初からSIVに関り,SFCのベンチャー教育の顔として知られている牧兼充さん(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助手)にSIVの過去・現在・未来に関してインタビューを行った。
⇒SIV
http://www.siv.ne.jp/
SFC Incubation Village研究コンソーシアムの略称である。SFC以外の塾生には馴染み薄い組織かもしれないが,SFCで『ベンチャー教育』『ベンチャーインキュベーション』『研究』を行っているベンチャー支援組織である。今年の10月には全塾的なビジネスコンテストを開催するなど,積極的にベンチャー教育の裾野拡大を目指して活動している。
「実は大学院に入るまで,ビジネスには全く興味が無かった」
と意外な言葉を放った牧さん。学部時代は村井純研究会に所属し,インターネットの技術とその活用などの研究を行っていたという。そんな牧さんが,ビジネスの世界に関るきっかけになったのが,4年生の時に出入りしていた鈴木寛研究会における松本孝利氏(元シスコシステムズ会長)との出会いである。松本孝利氏は,サンマイクロシステムズ & シスコシステムズの日本法人の創業者で,日本を代表する経営者である。
SIVが設立される直接の契機は村井純先生が、松本孝利氏をSFCに特別研究教授としてお呼びしたことである。松本さんが授業などを展開するうちに、彼を中心としたメンバーの中でSFCにおけるインキュベーションの仕組みを作ろうという機運が持ち上がり、SIV構想がスタートした。
牧さん自身は,松本氏との議論の中で、「大学にはビジネスのSeeds(種)が沢山ある」ということに気づき,またSFCの基本教育理念である「問題発見問題解決」を実践する場として,特に大学に埋もれている様々なビジネスシーズを事業化するSIV構想に共感し、SIV設立に実務の責任者として関る事となる。
「ちなみに修士論文の主査を村井先生に,副査を松本先生、國領先生にお願いしていました。」
SIV=國領二郎先生が中心というイメージが強いが,設立当初は村井先生,松本先生が中心のプロジェクトだったとのこと。ただ,松本先生が本業のビジネスの世界に戻られるタイミングに合わせて,ビジネス世界に強いKBS(慶應ビジネススクール)から國領二郎先生がSFCに教授として赴任されるという事で,今の國領先生中心のSIVが完成した。
SIVの仕組みが出来たといえ,SIVが今のようなSFCのベンチャービジネスの一大情報集積地となるには様々な紆余曲折があった。
「『なんで大学がベンチャーを支援する必要があるんだ?』という疑問がSIV発足当初には良く寄せられました。SIVが活動を始めるに当って目立った問題としては『学生の本質は勉強じゃないのか?』『若手が実働していてインキュベーションが本当にできるのか?』『大学の知的所有権問題』など課題が色々ありました。大学は『研究』と『教育』の場ですが,大学の研究資源をビジネス化することで,より社会に役立つ研究を増やせると同時に,学生に対しては研究の『exit(成果)』の過程でビジネス教育を行えるという形で反対派の方々を説得しました。詳しくは以下のBlogの記事を読んでいただけると幸いです。
「SFCの教育意理念として『問題発見・問題解決型教育』があります。ベンチャービジネスを社会の抱える問題の1つの解決方法とする事で,SFCの教育理念に沿ったベンチャー支援ができると考えています。SFC発のベンチャーとして,私的利益の為のベンチャーだけではなく、社会の抱える問題を解決する為の,社会全体の利益になるようなベンチャービジネスも支援していきたいと考えています。」
「SFC発のベンチャーの弱点として『営業力が弱い』ことが挙げられます。SFCの学生は営業に対してネガティブなイメージを持っているためか,『営業』をあまり好みません。ただ,ベンチャーである以上,営業は避けられないですし,むしろ最も重要な要素です。学生が営業を行ううえで最も大きな障害は『人脈が無い』事だと思います。今の30代−40代のビジネスの第一線で活躍するビジネスマンなら,学生時代の友達も同様の世界で活躍していて,自然と人脈は形成されていますが,学生の場合はそれがないのです。そこで,SIVは慶應義塾大学の特性を活かしてメンター制度を整備しました。このメンバーがSIVよりスピンオフして、『メンター三田会』を組織し,慶應義塾におけるベンチャーの支援を行っています。現在は20人程度が支援をくださっており,またSIVのコミュニティには33社の企業が協力してくれています。」
「SFCは慶應義塾大学の一部であり,こうしたベンチャー支援活動を通し,SFCから多様な人材やベンチャー企業を輩出する事で慶應義塾大学全体の活性化に還元できればと考えています。」
10年後の牧さんご自身と,SIVの将来像を聞いてみた所
「私個人は,博士課程を修了し,教員と産業界を交互に行き来する事でお互いにシナジー効果を生み出せたらと考えています。SIVの10年後は・・・。SFCがアジアの中のシリコンバレーとして,またアジアと結びつきの強いキャンパスとして,多様で優秀な人材が集まる『場』として中心的な役割を果していたらと思います。ただ,SIVが中心となって何かをすると言うよりも,学生が『主体』かつ『分散型』で,キャンパス内にSIVのようなグループがいくつも立ち上がるのが理想です。ただ,そうした様々な学生が自立的かつ様々なところで,ベンチャーに取り組んでいる環境の中で、そういった組織が相互に情報交換を協力しあうような環境ができるのがベストですね。」
「今年から全塾的なビジネスモデルコンテスト『SIV Business Idea Contest 2004』に取り組んでいるのですが,将来的には矢上・信濃町の『技術』,SFCの『アイデア』,三田の『経営』を上手く融合させる事ができればと思います。慶應義塾大学内の資源を有効活用し,更にアジアの中のシリコンバレーとしての地位確立を目指すのがSIVの今後10年の目標です。」
牧さんに最後に塾生に一言と伺ったところ
「各キャンパスの交流が年々減っているように思います。松本さんの研究会には、三田や他大学の学生、一貫教育校の高校生も出入りしていました。今SIVでお手伝いしている國領先生の研究プロジェクトにはあまりそういった人がいません。学生レベルでもっと活発にSFCと三田等の他キャンパスが交流してくれればと思います。ぜひ,ベンチャービジネスに興味ある学生の方々は國領先生の研究プロジェクトに遊びにいらしていただければと思います。極めてオープンな場です。」