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塾生インタビュー #24
■「クーポン打」プロジェクト・チーム
 代表:桐原大輔さん

『クーポン打』というサービスをご存知だろうか?携帯電話を使った湘南台近辺の飲食店の割引クーポン・サービスで,研究室のゼミを出発点にSFCの学生ベンチャーチームが開発した新しい広告モデルである。

『宇宙旅行をする為に資金を稼ぎたい』と豪語する桐原大輔氏(環境4年)の率いる『クーポン打』のプロジェクトメンバーに、開発過程から今後の展開についてお話を伺った。



『クーポン打』
http://www.qooda.com/



■『ベンチャーで稼いで宇宙旅行をしたい。』

『宇宙に行きたい! 』

意外な言葉で,代表の桐原氏のベンチャービジネスに興味を持った理由が始まった。
桐原氏は生れつき目に病気を患っており,視力の関係上,宇宙に行きたいが宇宙飛行士にはなれない。でも宇宙に行きたい。宇宙旅行という形で夢を実現したい。その為にはお金を稼ぐ必要がある。大金を稼ぐ為には,他人と同じ事をしていてもダメだ。何か新しい事に挑戦しないと。それが桐原氏がベンチャービジネスに興味を持った理由だと言う。

SFCの中で,実践的なサイバービジネスを扱う印南研究室に所属し,そこで桐原氏達は『クーポン打! 』の原型となるビジネス・モデルの構築に取り組んだ。

『自分のお金でスペースシャトルを飛ばしてそれに乗るしかないな、と思って。だからベンチャーを始めようと思ったんですよ。何十億円かで行けるらしいので。それに、もともと新しい物を作ってみるのは好きでしたし。新しい商品、新しいサービスを考えるのが好きでその究極形がベンチャーだと考えていたんです。そんな事もあってベンチャーを起こそうと思いました。』



■『構想半年で実行に! アイデアのヒントは大学の授業。』

『クーポン打!』はサイバー・ビジネス実践を行う印南研究会で生まれた。印南研究会は,大学の教育の一環として,新しいビジネス・モデルを策定と実践を行っている。桐原氏は既に卒業した先輩達を含め,数名で新しいビジネスモデルを探していた。

「多くのビジネスモデルは思いついても,ネットで検索すると誰かが先に手を付けていたり、法的な理由でできなかったりして、中々新しいビジネスモデルを発見するのは難しかった。そんな中、偶然大学の別の授業で「エンターテイメントと広告モデル」を結びつける課題が出たんです。その時にタイピングソフトである「早打ち」と「広告」,そして「携帯電話」を結びつけ,『クーポン打! 』のアイデアの原型を思いつきました。」

『クーポン打! 』は一言で言うと、携帯電話上で広告文を入力させる早打ちタイピングゲーム。

湘南台周辺にある飲食店の広告文を書き込み、得た得点に応じて、クーポン券を携帯に送信するというサービスだ。ゲームで高得点をとると、より割引額の高いクーポンが手に入る。

「既にゲームとして確立しているパソコンの早打ちタイピングゲームからヒントを得ました。タイピングゲームをやっていると、やっている内に自分の打っている文章を覚えられるんです。打ち込んでいる内に勝手に頭の中に刷り込まれていく。これは広告として凄く可能性があるんじゃないかと思いました。それを大学生ならほとんど誰でも持っている携帯電話でやったら面白いのではないかと考え、このプランを作ったんです」


クーポン打オフィシャルサイト(http://www.qooda.com/

■『仲間を集め、アイデアをカタチに!! 』

アイデアを思いついてから実際にプロジェクトが始動するまでにかかった期間は1年程。準備期間をかなり長く取ったが、その分だけアイデアを詰められた。早打ちのスコアに応じて割引額が変化するクーポンを発行しようという現在のアイデアが出たのもこの時だという。

「このプランを思いついた当初のメンバーは7人。私が他の6人に『こんなプランがあるけどやってみないか』って呼びかけたのが始まりです。今年新しいメンバーも加わり現在10名で運営しています。」

「クーポン打!」は現在この10名でシステムの運営からデザインまでを一貫して行なっている。

今のところまだ、会社化はしていない。今は印南研究会の中でのプロジェクトという位置づけだ。法人格の取得を目指し、現在6月末を目途に他大生を含めた株式会社化に向けて動いている所だという。

「この『クーポン打! 』って凄く可能性を秘めていると思うんですよ。今はまだまだ試行錯誤中。実際動かしてみて初めて分かる事もありますから。今後データを集め、システムどんどん改良していきたいと思っています。将来は、この湘南の地を足がかりに大企業相手でも渡り合っていけるサービスを提供したいですね。僕は院に進学する予定なので、卒業するまで後二年ある。後二年間しっかりこのプロジェクトを育てていきたいと思っています。」と桐原氏は語る。


プロジェクト『クーポン打』のチームメンバー

■『最終的には足を使って営業活動! 40件の店舗を回って10件から協力』

「インターネットのシステムに関しては問題なかったんです。優秀なプログラマーがいたんで。『こういうのを形にしてくれ』というとしてくれちゃう。だからシステム面での難しさにはあまり触れてこなかったんです。逆に大変だったのが営業活動ですね。」

『でもビジネスを自分達で立ち上げるのって大変そうですよね?』こう問いかけた編集部に桐原氏は答えた。

今年の2月、3月に入り本格的に営業活動が始まった。4月5日の『クーポン打! 』サービス開始日に向け、広告主となる飲食店の確保が目的だった。

「このビジネスプラン自体がかなり新しいものですからね。飲食店を経営している親父さん達に『早打ち』と言っても何の事だか分からないので、説明するだけで10分、20分とかかってしまう。『携帯電話いじれねぇよ』なんて言われるとどうしたらいいか分からなくなってしまう。あとは学生に人気のある店に限って学生をターゲットにしていなかったりとか。」

桐原氏は苦笑しながらこう語った。

「経営者の方々にも色々いて、学生ベンチャーらしい情熱を求める経営者、数字的なデータを求める経営者など様々でした。それをいかに判断するかが営業活動の一番のポイントでした。」副代表兼営業主任を務めた伏見和哉氏(環境情報3年)と武田英明氏(環境情報3年)はこうコメントする。

湘南台の飲食店40店を回り、最終的にこのプロジェクトに協力してくれた店は10店前後。協力してくれた店は、どこも「学生でベンチャーをしたい」という熱意を買ってくれたという。


伏見和哉氏(環境情報3年)と武田英明氏(環境情報3年)

■『目指すは年商一億円。メンバー全員に給料を払いたい! 』

準備に長い時間をかけたものの、実際サービスを開始して初めて気付く問題も多かった。

例えば、通信のシステム上の問題だ。利用者側にパケット通信の料金がかかる。ある機種では正常にクーポンが送られて来るのに、ほかの機種ではドメイン指定で弾かれてしまう。機種依存文字の影響で、意図したものと全く違う文字が送られてしまった等だ。

他にも企業としても通用するホームページを作らなければならない、提携先の店が広告文を設定してくれない等、解決しなければならない問題は山のようにあった。

現在『クーポン打! 』のメインのターゲットは大学生。

「定食屋の主要な客層である中高年層は、残念ながら携帯電話使うのが苦手な方が多いんですね。早打ちをするというプランのコアな部分でミスマッチが起こってしまった。・・・・・・・という事で中高年層は泣く泣く除外し、ターゲットは皆ある程度携帯を使いこなせ、ある程度の早さで打てる学生に絞りました。」

ターゲットを大学生に絞った理由を桐原氏はこう語った。

PR活動も現在学生を中心に行っている。最重点地域はSFC内部だ。PR活動の余地はまだまだ残っているが、最近街で「クーポン打! 」のチラシを持っている人もよく見かけるようになったという。

「個人的には自分の在学中に三田祭・矢上祭なんかのスポンサー集めにもくいこんで行けたらと思っています。ただ基盤が湘南にあるんで、三田・日吉などでは細かいケアをどうするかという点が課題ですね。」桐原氏は今後の抱負をこう語った。

将来「クーポン打! 」をどこまで育てたいかという目標を訪ねる編集部に、桐原氏は『年商一億』と答える。

自分達に普通に給料を払える会社にしたい。と、言う事は一人当たり月25万で、今7人くらいのメンバーがいる。単純に考えて月に200万弱の人件費が必要。そうすると売上は多分その倍以上。年商は5000万位は欲しい。大きく言って一億位の収入。というのがその理由だ。

4月2日に開設したばかりの、ベンチャーの卵「クーポン打!」。彼はこれを使って一億という壁に挑もうとしている。

しかし、不可能とは言い切れない。我々編集部に対し、それだけ将来の秘めた可能性を感じさせるプロジェクトだった。これを読んで興味を持った皆さん。皆さんもいかがだろう。

長い大学生活、ビジネスとベンチャーの世界に飛び込んでみるのも面白いのではないだろうか。


■クーポン打オフィシャルサイト
http://www.qooda.com/

■印南一路オフィシャルサイト
http://web.sfc.keio.ac.jp/~zion/



取材   柄澤直己
坪井直紀
吉川英徳



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