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塾生インタビュー #29
■めでぃすた慶應2003年度代表
 末澤寧史さん(法学部法律学科4年)さん

めでぃすた慶應は、2002年度に創設された、学生によるインターネット放送局だ。

企画・制作・発信・運営すべてが、メディアコミュニケーション研究所に所属する学生の手によって行われている。

めでぃすた慶應の企画のひとつ、アフガンステーションでは、2002年12月から継続的に、アフガニスタンからのインターネット動画配信を行っている。アフガニスタンの様子を、マスメディアの報道とは異なる学生の視点、若者の視点、生活者の視点からレポートするという企画である。

過去4回アフガニスタンに渡り、現地からのレポートを配信し続けてきた末澤寧史さん(法学部法律学科4年)にお話を伺った。



■「アフガニスタンは本当に不幸で危険な国か?」

難民、テロ、麻薬、旱魃、戦争。世界最貧国といわれる国、アフガニスタン。
一般的な情報からは「アフガニスタンは不幸で危険だ」というイメージが絶対化されがちだが、果たしてそれは本当なのだろうか?

実際に現地に行って、見て、感じて、確かめてみよう。そして自分たちなりのアフガニスタンを伝えることはできないか。

アフガンステーションは、そんな思いから始まった企画である。
実際に現地に入り、現地で撮影・編集した映像を、現地からアフガンステーションのホームページ上で生配信する。

末澤寧史さんはパソコンとビデオカメラを抱えてアフガニスタンに飛び、自分なりの視点で現地の文化や生活、復興状況などを伝え続けている。最も最近では,2004年3月にもアフガニスタンを訪れ、周辺国を経てつい先日である4月中旬に帰国したばかりだ。

遠くアフガニスタンにまで彼を駆り立てるものは、一体何なのだろう

■自分自身で体験して感じる事を伝えたい!

2002年の春、大学2年生の末澤さんはメディアコミュニケーション研究所に入所し、創設されたばかりの「めでぃすた慶應」でドキュメンタリーの制作を始めた。ジャーナリスト志望だった彼は、知ること・考えること・伝えることを実践する場としてドキュメンタリー映像作品の制作を始めたが、やがて壁にぶつかったという。



「頭で考えているだけでなく何か行動したいという思いから、ドキュメンタリーの制作を始めました。でも取材と番組制作というものを体験してみる中で、まだ自分自身が問題と向き合っていないという意識がありました。すごい人をすごいと思い、その人のことを人に伝えたいと思ったけど、ぼくは取材してカメラを回しているだけで、自分自身で何もやっていないと感じました。その葛藤を解決するために、人の体験を通して物事を伝えるだけでなく、自分自身で体験して、自分自身の感じることを伝えてみたいと思ったんです。」

そんな折に始まった企画が、アフガンステーションである。

■アフガンの日常部分と非日常部分

そんな折に始まった企画が、アフガンステーションである。
自分の足で赴き、自分の目で見て感じたアフガニスタンを伝えてみたい。
実際に現地に訪れてみて、不幸で危険なだけではないアフガニスタンの生の姿を体感したという。

「報道されるアフガンの情報は当然、非日常がフォーカスされています。麻薬や地雷、貧困などの問題は重要ではありますが、彼らの暮らし全体ではありません。
情報のバランスがおかしいんじゃないか。アフガンの非日常の部分だけでなく、もっと彼らを身近に感じられるような日常の部分の情報も必要なんじゃないか。アフガンステーションでは、何も知らない人のための入り口として、同じように何も知らない学生の視点から、目線の下りた具体的な情報を伝えたいと思いました。」

ひっかかりを持たないまま、流れていく情報。
悲惨な現状にも実感が持てない。問題が問題として、リアルにならない。
事実は事実として伝わっていても、イメージが先行して共感に至らない。
そんな情報環境に疑問を持ち、末澤さんは自分なりの情報を発信しつづけている。




■パッケージ化された情報より,自分の足で得た情報を大切にしたい

23年戦争の続いたアフガニスタンでは、今でも戦争の被害に苦しむ人々が多い。
基礎的な教育や医療の不足、インフラの未整備、貧困。物乞いは町中に溢れている。
そんな状況の中でも、人々は暗い顔をして鬱々と暮らしているわけではない。
アフガニスタンの人々だってもちろん恋をする。元気な子どもの笑顔もある。

生活困窮者の施設では、精神を患った人々が、時には笑顔も見せながら淡々と日常を送る。教師や本など足りないもの尽くしのカーブル大学では、知性豊かな学生の真摯に学ぶ姿があった。砂漠のイメージが強い国だが、オアシスには目を奪われるような美しい緑が広がっている。

復興への活気というありふれた言葉に収まりきらない、迫力のある生活感。
ひとりの学生の視点を通して、アフガニスタンの生活や問題がリアルに伝わってくる。

「実際に現地に訪れてみて、不幸や危険よりぼくはむしろ豊かさや明るさを感じることが多かった。アフガンの人々も、ぼくたちと同じように普通の日常を送っています。本当にものすごく当たり前のことだけど、同じ人間なんだから。そんな当たり前のことを、ぼくたちは時々忘れてしまいそうになっていると思う。

パッケージ化された情報から、安易にイメージを固定してしまうのはすごく怖いことです。自分の足を使って、自分の目で見て、自分の感じ考えることをもっと大切にすべきだと思っています。」




■ドキュメンタリー制作を通して,自分と他者の違いを知る。

イメージと実態のギャップに戸惑ったり、現地人とのコミュニケーションに四苦八苦したり。人の心の揺れ動きと共に、体験として伝えられる現地の情報。

末澤さんの体験を通して、視聴者である私たち自身も自分の生活や生き方を問い直される。

「もっと知りたい、もう一度行きたいという思いに偶然の機会が重なって、今までに4回アフガンへ足を運びました。何度も何度も自分の足で訪れることで、アフガニスタンがだんだん立体的に見えてくるようになってきました。

自分の知りたいと思う対象を追いかけ、自分だけでは気づかない世界を覗いてみる中で、共感したり感動したりしながら、自分自身の世界が広がっていくのを感じています。
ドキュメンタリーの制作では、他人を撮っているようで、実は自分自身を撮っているような感覚を持ちます。人と自分の違いに触れるたび、自分自身の立ち位置や自分自身の感じ方を確認しています。

自分の内面をみつめ、自分の実感と正面から向き合ったときにしか、人の共感を生むような表現はできないと思う。誰かが決めた枠組みを通して漫然と現実を見るのではなく、自分自身の五感を使って感じるものを表現する中で、共感の根本を見つけていきたい。ぼくの表現は、まだまだそんな域には達してませんけど。(笑)」



■アフガニスタンで、自分なりの情報を発信する面白さを実感した。

自分の足で歩き、自分の目で見て、自分の耳で聞き、体験して、感じ考える。
自分の知りたいことは、自分で調べる。そして伝える。
彼の視点を通して伝えられる情報は、間接的な情報の域を超えた、人間の共感のかたちなのだ。

アフガニスタンでの体験を通して、自分なりの情報を発信する面白さを実感しているという。

「アフガニスタンでは、自立的に生きる面白さを知るきっかけをもらいました。ものを見る視点を学び、自分の実感を大切にしたいと思っています。将来は表現の世界で生きていきたいと思いますが、その形がどんなものであれ、自分なりのものの見方をすることは常に心がけていきたい。」

現在も彼は、朝日新聞神奈川県版で学生記者を務めるなど精力的に活動を行っている。

アフガンステーションのホームページには、こう書かれている。
「まずは知ろう、興味を持とう。そして人とつながる喜びを!」

あなたは自分の感性、大切にしてますか?

■アフガンステーション
http://mwr.mediacom.keio.ac.jp/medista/documentary/afghan.htm

映像作品や日記など、末澤さんのアフガニスタンレポートが見られます。

■めでぃすた慶應
http://mwr.mediacom.keio.ac.jp/medista/



取材   吉田麻衣子



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