慶應義塾大学理工学部を中退し、商学部に入学、現在2年生に在学中
「2店舗できればね、10店舗も100店舗も同じなんですよ。」
ただの学生の古本屋でしょ、と高をくくって取材依頼に応じた編集部であったが、話を聞く内に「ん?何か違うぞ」と、気がつけばメモを取る手にも力が入っていた。
「ちゃんとしたノウハウがなければ、街の古本屋さんで終わっちゃう。リサイクル事業としてシステムを確立させ、利益を上げ、パッケージ化した事業システムを他大学にフランチャイズ化していきたいと思っています。」
慶応大学商学部二年生にして、株式会社起業塾代表取締役の肩書きを持つ松本哲哉は、私たちの前で冷静に、淡々とビジョンを語っていく。
「試験の前に一回開くだけの教科書に、一万五千円から三万円出しているというデータがあります。アメリカでは広く行われている中古教科書リサイクルが、日本ではごく僅かしか行われていない。つまり、学生に選択肢が無いんです。今のこの時期って、遊びたいじゃないですか。そういう学生のニーズに合っていると思うんですね。」
漠然とした思い込みだけを頼りに、勢い任せで事業に乗り出さない。事前の市場調査を行い、客観的なデータの裏づけを取る。今回このリサイクル事業に着手するにあたっては、今年七月、自身が顧問を務める経済新人会の協力を得て、新入生を対象とした教科書購入に関するアンケートを実施している。一株式会社社長として、確固たるビジョンを持ち、目標を据える。そこに「学生だから」という甘えは無い。
「学生って、生ぬるいと思うんです。」
一見生意気にも聞こえるこの言葉は、恐ろしいくらいに学生の匂いがしない松本の経歴を見れば、納得がいく。
14歳、中学生の松本は、まだインターネットが一般に普及していなかった当時にソフトウェアのクリエイティンググループ『Soft工房』を設立。全国にいるコンピューター技術に長けた中高生を活動メンバーとして集め、コンピューター開発能力をもった大学生や、本職のプログラマーを顧問に迎える。
高校時代には音楽プロダクションの企画を通じて知り合った学生と『EST』というプロデュースグループを結成。音楽業界を中心としたIT化やeビジネスの活動を進める中で人脈を広げ、次第に業界内でも「インターネット関連の仕事をやってくれる面白い学生がいる」と評判が立っていった。
やがてESTは、西新宿に事務所を構えるまでに成長し、店舗の企画運営、カラオケ店の建て直し、商品開発、サイトの制作や運営と、その活動は多岐にわたった。「事務所に入り浸りでしたね。」松本はそう当時を思い出して笑う。
「大学なんて行かずに企業に行け。」高校二年の冬、受験を考えはじめた松本に取引先の社長は再三にわたって勧めた。しかし十代からビジネスの最前線に身を置いてきた松本にはまた、学問に対する興味も捨てられずにあった。国立大学も考えたが、様々な経営者の話を聞く内に、「やはり自分は学究より社会に出る方が向いているな」と考え、慶応義塾大学への進学を決めた。
理工学部でコンピューターを専攻したが、ビジネスに関する本を多読する内に、次第に金融に惹かれはじめ、独学の簿記会計の勉強会を開き、ビジネススクールの講義にも参加するようになった。「資本主義の根幹をなすのは金融だ。金融政策知らずして将来の大成功なし。金融をひとつの核にしていこう。」
理工学部を中退。経営者への道を突き進むべく商学部へ編入した。
今までに自分がビジネスの世界で学んできたことを、将来のベンチャー社長を目指す塾生に伝えていければ。そんな思いから株式会社起業塾を立ち上げた。
その起業塾が目下取り組むのが中古教科書リサイクルビジネス、『教科書リサイクルセンター』である。
大手古本屋もインターネットオークションもライバルにはならないという。
というのも教科書リサイクルセンターの買取基準はずばり「(来年)使えるか、使えないか」。だから線が引いてあろうが破れていようが問題では無い。
各学部の授業について、過去のデータを集計し、来年度の必修科目を予測するといった起業塾の独自リサーチによって査定を行い、買取価格が決定される。
さらに在庫管理は、一冊一冊にIDを付与し、インターネットを使ったデータベースで行う。これにより地球上どこからでも、買取・販売などの在庫管理が可能となる。「amazon.com並の在庫・販売管理です。おそらく、大手古本屋よりきめ細やかな在庫・物流管理になっているのではないかな、と思います。」そう松本は自負している。
このシステムにより、教科書を買いたい塾生は、携帯電話やパソコンから在庫状況を確認して注文ができる。
現在、日吉商店街サンロードにある雑貨屋アンダルシアにて来年の四月の本格スタートに向け買い取り中。
売りたい教科書のある塾生は、ただ本を持って店にいけばよい。
「お友達キャンペーン」として、教科書を売るともらえる紹介券を友達に渡し、友達が教科書をリサイクルセンターに売る際にそれを提示すると、友達の買取額の半額分が自分にキャッシュバックされるという嬉しいサービスもある。
インタビューも終盤に差し掛かった頃、松本が突然歌い始めた。「買うよ〜チャチャ買うぞ〜チャチャ買っちゃうぞ〜チェケラッチョ♪ってね、リサイクルセンターのテーマソングも作詞作曲したんだけどさ」「絶対歌いたくありませんよ。」隣にいた松本の後輩、菅原光明君(経済1)が冷静に突っ込んだ様子が可笑しかった。
最後に塾生に一言求めると、
「教科書、売って下さい!!」
大きく声を合わせて、ふたりは深く頭を下げた。
【教科書リサイクルセンター】
日吉駅より徒歩1分 サンロード沿い「雑貨屋アンダルシア」
営業時間 12:30〜18:00(平日のみ)
http://yasui-text.com/