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塾生インタビュー #10
■HIYOSHI AGEオーガナイザー
 井口琢磨さん

日吉に足りないものは何か。

今回のプロジェクトは、そんな疑問から始まった。

昭和9年に日吉に慶応義塾大学のキャンパスが開校してから70年。
今、はじめて大学からの歩み寄りによって、慶応の塾生、日吉の住民、慶応大学が一丸となって未来の「日吉」を創る、21世紀の一大プロジェクトが始まろうとしている。

HIYOSHI AGE(Art. Gate. Effects 2003)
〜日吉地域文化交流フェスタ#00〜

オーガナイザーは、経済四年井口拓磨、文学四年石川華江

 慶応ジャーナルでは、このイベントを開催日時に合わせて、二回に分けて特集する。今回のインタビューは井口拓磨さん。ヒヨシエイジプロジェクトの第一弾、13日(月・祝)に行われる「ヒヨシエイジ2003〜地域文化交流フェスタ#00〜」にて、花火打ち上げ師でありサウンドクリエイターでもある彼は、自らデザインした花火をバックに、シンセサイザーによるオリジナルライブ演奏をシンクロさせるコラボレーションパフォーマンス「HIYOSHI FIRE MARK」を行う。






―まず今回のイベント「ヒヨシエイジArt.Gate.Effects.2003」について聞かせて下さい

 一言で言えば、日吉の商店街、学生、大学、この三者が一丸となって「日吉」という街をコミュニティーデザインし、活性化させることを目的にしたイベントです。商店街がお金を出し、大学が場所を提供し、そして学生が主催する。イベント名のヒヨシエイジは、Artを媒体として、僕たちがそのGateとしての役割を持って、日吉の様々な人達にEffectさせていく、その3つを取ってヒヨシエイジ(A.G.E.)と付けました。


―学生と商店街と大学、三位一体ですか。

 そう、何といっても注目すべき点は、大学が絡んでいるという点なんです。僕が思うに、大学には三種類あって、一つ目は地域に密着した大学、二つ目に人物と深い関係を持つ大学、三つ目に、時代に重きを置く大学。青山や早稲田は一番目で、早稲田なんかはキャンパスの外の地元といろんな活動をして関わりを持っています。二番目は、フェリスや立教。創立者の名前が学校名になっていることから分かります。

 で、最後の、時代と結び付いているのが、慶応や明治。20世紀から21世紀になるとき、第二回「世紀送迎会」ってのをやったのを知っていますか?第一回のは、19世紀から20世紀になるときだから、まだ福沢先生が生きていた頃なんですよね。そう考えると、慶応がどれだけ時間とか、時代を意識しているかが分かります。ただ、その反面、慶応は早稲田などに比べて、地域にはそんなに目を向けてこなかった。最近になってこそSFCの七夕祭や矢上祭などが地域をコミットしはじめている状況。だから、今回、日吉を舞台に慶応義塾と地域が共に歩み寄っていったことは、本当に大きな一歩だと感じています。」


―ヒヨシエイジ2003では具体的には何を行うのでしょう。

 今回のプレ開催企画の目玉である花火ライブのほかに、日吉の伝統芸能である神楽(かぐら)、奇術愛好会のステージに加え、学生有志の出店などがあります。それと、13日に先立って、日吉在住の写真家、福田武さんの花火写真展「炎の伝説」が日吉の来往舎ギャラリーで開催されます(写真参照)。ヒヨシエイジの第二弾として、10月31日から11月2日まで日吉商店街を舞台に開かれる「うずき」があります。」(編集部注:「うずき」に関しては後日、本サイト上で取り上げる。)


―今回、井口さんは世界でも類を見ない花火と音楽の融合をライブで行うということで。

 はい、花火ライブは、『自分の人生でいつかは!』って思ってたことなんですが、まさかこんなに早く現実になるとは思ってなくて、大学から話を頂いたとき、正直自分でも驚きでした。でも自分のすごくやりたいことだったから、全プロジェクトを一ヶ月弱で立ち上げて、夏一杯毎日プレゼンと交渉、ミート、新聞社とかの取材を重ねて、今やっと曲作りに入ったところです。音楽は全てこの日の花火に合わせたオリジナルで、花火も勿論、デザインから発注まですべて自分で手掛けています。当日は秒単位で打ち上げ時間を決めて、業者さんやSFC慶応花火会のメンバーとの綿密に1/2秒単位で打ち合わせて、息を揃えて絶妙なタイミングで打ち上げます。

 音楽に関しては、今回は自分のシンセ&ピアノの生演奏に色々な花火のイメージを考えました。テクノトランスっぽい感じで勢いよくスターマインが打ちあがったり、全長50mのナイアガラの滝では幻想的なピアノソロだったり、オーケストラとともに4号の菊が上がるなど、その他、今年デビューのたまちゃん花火や新色玉も無理を言って発注してもらいました(笑)業者の人(ハナビヨコハマ)とじっくり打ち合わせて、色や秒単位の打ち上げタイミングやスターマインの構成など演出について色々考えています。初めてのことだし、しかもリハーサルも出来ないのでとても心配ですが、どんどん具体的になるにつれワクワクしちゃいます。

―でも、なんで花火と音楽なんですか。花火打上げ師で、サウンドクリエイターという井口さんの経歴も大変気になります。

 変ですよね、すごく、自然な質問だと思います。(笑)
 元々自分が音楽を始めるきっかけになったのが、福田さんの撮った花火の写真なんです。中学三年生のとき福田さんと知り合って、いつも彼が撮影のために花火大会で陣取る一番前のど真ん中の席で初めて花火を見たんです。もう花火見終わって、興奮してダッシュで帰宅し、その勢いで家に帰ってすぐにピアノに向かって作曲をした記憶があります。それが初めての作曲でした。

 それ以降、ピアノやシンセサイザーやなどを使っていろいろな音楽を作るようになり、慶應大学に入って自分の音楽を映像のジャンルで活かしたいと思い、ドキュメンタリー制作サークルに入りました。そこで初めて僕が制作した作品が花火写真家、花火師、花火マニアなどをモチーフにしたもので、その取材をきっかけに色んな花火業界にコネクションが出来、ついに念願の花火打ち上げの資格(煙火打揚従事者手帳)を取得することが出来ました。大学3年時には、ゼミ研究会活動や表象文化研究機関での映像・音楽制作や色んな実験コンサート活動を中心に、SFC、矢上、他大など各文化祭や横浜みなとみらい花火大会などの現場も業者さんと一緒に出入りしていました。

 「いつか有名になって、自分の音楽にあわせて、自分のデザインした花火があがればいいなぁ。」という夢は高校の頃から持っていて、そんなことを一生に一度でも経験してみたいと思っていました。バカだなぁとか言われてましたけど。ところが思わぬところで今秋、いろいろな出来事が偶然にもマッチングして、見事悲願の音楽花火イベントを企画させてもらう運びになりました。自分のしたかった事、やりたかった事で人が喜んでくれたり、感動してくれたら本当に嬉しいことじゃないですか。花火の良さを最大限に活かせるような音楽を作りたいし、それにお客さんも感動してもらえたらもう最高ですね。


―これだけ大掛かりな企画を作っていくのはプレッシャーが大きかったんじゃないですか。

 広報とか花火とか、はじめは全部一人でやっていて、相当大変でした。やっぱ好きだからできるんでしょうね。もしやらされてることなら、もうやってませんよ。花火の場合、通常のLiveと違って、リハーサルが出来ないんです。イメージ通りにいくかとても心配です。やってみなきゃわからない。でもやっぱ花火の現場も、音楽も、自分で全部プロデュースしていく醍醐味は代えられませんよ。今回はその自分のやりたいことと、地域の求めるものがちょうどマッチングして、陸上競技場とか使わせてもらって、放送研究会の力を借りて、音響設備も早慶戦並にした大規模なものができる。その他、本当にいろんなスタッフの助けがあっての実現なので、僕のわがままに無理に協力してくれた一人一人に本当に感謝したいと思います。


―次年度以降のヒヨシエイジにも井口くんのような塾生が出てくるのでしょうか。

 アートの発表の場を求めている塾生はたくさんいます。今回は、プレということで、ゼロ回目なんです。来年度から大学が本格的に関わってきて、規模ももっと大きくなると思います。SFCでは湘南台にクリスマスイルミネーションを飾るなり、地域がコミュニティスペースを開放したりなど、どんどん塾生がpublicに踏み出しています。こういうのが日吉や三田にもあってもいいんじゃないかな〜と。今回のヒヨシエイジ2003が先駆けとしてこれからの慶応の動きの起爆剤的要素になってくれると嬉しいです。


―最後に、何か塾生に対してメッセージをお願いします。

 やりたいことをやった方がいいです。「今を楽しまなきゃ」って、僕はその時その時好きなことやってて、ステップ踏んでいって、その経過が全部プラスになって、今回の大きなイベント開催につながったんです。周りの価値観に流されないで今を楽しくがんばっていかなきゃ拓けない道もあります。そうすることで見えてくるものがあります。僕は人の3、4倍は楽しい大学生活を送ったといえる自信があります。大学の体制を動かす感覚が最高に楽しいですね!」



 インタビュー終了後、どの花火大会でも流れるテーマソングを作りたいな、と壮大な夢をぽろりと口にした。この人なら本当にやってしまいそうだ。「まあまずは、三田のチャイムを俺の曲にすること、かな。」そう言って笑った。

(INOSIS×イノクチタクマ URL http://www.sound.jp/inosis
 イベント案内:慶応オフィシャルinfo http://www.keio.ac.jp/event/031001.html


取材   岩原日有子



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