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塾生インタビュー #8
■創像工房・夕空スタイル脚本、演出
 鈴木直俊さん

残暑が厳しく、まだセミの声が聞こえる日吉キャンパス。目のくらむような日差しとはあまりにも対照的な学生会館の地下で、「夕空スタイル」の出演者たちは公演に向けて黙々と練習をしていた。2ヶ月もの期間をかけて彼らが伝えようとしているものとはなんなのか?



■作品で描きたかったのは、「変化する街の悲劇」

―夕空スタイルとはどんなお話なんですか?
この作品は街がテーマの作品です。海があって、夕焼けの見える丘があって、それでいて都市化されている、そんな街です。そこに住み、生活している人々の日常を切り取って、客観的に眺めてみたら面白いんじゃないかと。

―日常を切り取るっていうのが面白いですね。
あくまで切り取るだけなんです、感情移入とか、登場人物の主観では書いていない。景色なんて気分で変わるもんですからね。あえてそうはしないで淡々と描写することを心がけました。街を歩きながらそこにいる人を観察している、そんな視点です。

―テーマはあくまで人ではなく街と?
そうですね。物語にするとどうしても人の方に目がいきがちだけど、書いている側としては、そういう人々を通して街の空気や世界観を見てほしいです。

―なぜ街の話を書こうと思ったんですか?
田舎育ちですからね。東京の端っこの方。だから、街というか都市には居場所がない感じがするんですよ。都市って流動的ですしね。だけど、その分街を客観視できるっていうか、街をボーっと見るのが好きなんですよね。だから街の日常を切り取るっていうのやってみようかなって思ったんですよ。

―ちなみにこの街にモデルとかあるんですか?
そうですね、ディティール的には横浜かな。都市の規模とかはそのくらいを想定しています。僕自身も神奈川県出身ですし、何かと行くことも多いのですからね〜、自分で意識している以上に影響は受けていると思います。

―タイトルにある「夕空」にはなにか特別な思いがあるんですか?
するどいですね(笑) 当然あります。僕がこの作品で描きたかったのは、「変化する街の悲劇」というか、終末性みたいなものです。僕にとって街の発展は、終わりへつながっているんです。例えば木があって、それが倒れて、そこから新しい木が生えてくる、ここから感じられるイメージは「再生」です。でも同じように街があって、それが壊れて、新しい街が作られても、それは本当の意味では再生ではない。たくさんのものが壊されて、失われて・・・そういったものが多すぎる。地球に優しくないというかね。それで、そんなイメージがまさに夕空。太陽が沈んで夜が来る、終わりへの予感。うまく説明できないんだけどその辺は作品を見てもらえれば(笑)

―それらは鈴木さん自身の気持ちだったり?
どうでしょう(笑) ただあくまでも僕は観察者の立場なので。最初にも言ったように僕はあくまで切り取って観察しただけです。そこに自分の感情はない。ただ書いていく上で少なからずそういうものが入ってしまうって事はありえますからね。そのへんはご想像にお任せします。

■楽しくなかったら夏休みまるまる費やしてなんかできない

―今回あえて塾生会館でなく、相鉄本多劇場を選んだのには何か理由があるんですか?
ご存知のように相鉄本多劇場といえば知名度も高く、キャパも大きい劇場です。どうせやるならたくさんの人に見てほしいということもありここを選びました。塾生会館だとどうしても塾生しか見に来ないですからね。



―一般の方にお金をとって見せるということは、かなり大変なことだと思うのですが。
当然脚本や演技など、高いクオリティが問われます。学校でやるときはお客さんも学生ですから、「同じ学生だから」っていう暖かい目で見てくれます。でも劇場でやるとなると、見に来る人もそれなりの心構えで来るというか、「お金を払っているんだ」シビアな見方をしてくるわけです。うちわで盛り上がるっていうだけでは通じません。だからこそ楽しいし、やりがいがある。「学生の演劇」っていうアマの土俵ではなくて、プロの土俵で戦いたかったんです。

―そういったプロへの意識はどこから来るんですか?
僕らの世代って戦う相手や場所がないじゃないですか。モラトリアムとして与えられた学生時代、世の中も平和だし学生運動も無い。それに甘んじて、限られた空間の中だけでなんとなく暮らすのが嫌なんです。もっと外に向かって、不特定多数の人を相手に自己主張がしたい。というか自分の世界観を見てもらいたい。そのためにも、あえてホームでは戦うのではなく、最大限の無茶をしたいんですよね。演劇でメシを食っていきたいからとか、そういうのではありません。

―演劇はあくまで自己表現の手段の一つであると。
少なくとも僕にとってはそうですね。実は演劇を書くのはこれが初めてで、それまでは映画を撮ってたんです。短めの作品を5本くらい。これからもどちらかに絞るとかそういうことはしないで、自分が表現したいことを表現したい形で作っていければと思います。

―鈴木さんにそこまで自己表現をさせるのはなんですか?
うーん、一言で言えばモテたいからってのが最初かな(笑) バンドでもおしゃれでも何でもそうでしょ、初期衝動ってみんなそんなもん。まぁ当然それだけじゃ続かないわけで、ここまできたのはやっぱり表現することが楽しいからかな。だって楽しくなかったら夏休みまるまる費やしてなんかできないでしょ。





―最後にずばり「ここをみてほしい」っていう見所を教えてください。
全体を見てほしいってのが本音ですが、あえて1シーンをあげるとすると、丘の上で主人公達が街への思いを語るシーンですね。ポツリポツリといった感じで話しているのですが、そういった一言一言がこの街を作り上げているんです。そういった意味では、ここが夕空スタイルを最も象徴しているシーンだろうと思います。この作品自体、街の様々なイメージを散りばめて作られていますからね。


鈴木さんの客観的観察が全編にわたって冴え渡る「夕空スタイル」は今月25日から3日間、相鉄本多劇場にて公演される。インタビュー後、鈴木さんの熱意にふれ、私は個人的意見ながらも、当日会場が多くの人であふれかえるのを確信した。このインタビューを読んで興味をもってくれた人はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
なおチケット販売、タイムテーブルなど詳細は創像工房のホームページにて確認してください。


取材   阿部瑞穂



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