放送研究会 K-SOUND・松尾大輔さん
#1-No.2
放送研究会 K-SOUND
松尾大輔さん(経2)

★特集 - 慶早戦の裏方たち '05

広い神宮球場内に響き渡る応援歌。誰もが耳にするこの応援歌を、応援スタンド中に響かせているのは誰だろう?―PA(public address:公衆伝達)と呼ばれる音響の仕事をする人たちである。じゃあその彼らは一体誰なのか?―実は慶早戦においてその音響を担当しているのは、放送研究会PAパート(別名:K-SOUND)に所属する塾生なのである。
彼らの主な仕事は、應援指導部吹奏楽部が演奏する応援歌をマイクで拾い、スピーカーを通してスタンド中に響かせることである。音響に関する知識に長け、機材を自在に操る彼らがいなければ、私たち塾生は一丸となって若き血を歌うことはできないといっても過言ではない。
そんな彼らの中で、2005年度春の慶早戦のPAチーフ(慶早戦におけるPAという音響の仕事の総括責任者)を務めた松尾大輔君(経済2年)に取材を試みた。

◆慶應義塾放送研究会
http://www.kbs.udn.ne.jp/

■放送研究会PAパート(別名:K-SOUND)について

―どのような団体なのですか?
PAパート(別名:K-SOUND)は、慶應義塾放送研究会に属していています。つまり放送研究会の中のPAパートを、別名でK-SOUNDと呼んでいるのです。放送研究会の活動はいくつかの種類(パート)に分けられます。その中で音響を専門にしているのがPAパートです。放送研究会は外部からの仕事を引き受ける形での活動を行なっていますが、PAパートも同じように外部からの音響に関する仕事依頼を受けてやっています。

―どんな活動をしているのですか?
主な活動としては、オリエン、慶早戦、そして学園祭の音響ですね。ただ三田祭に限っては、所属が放送研究会ではなく一時的に三田祭実行委員会に変わります。外のステージの音響はプロがやっていて、僕たちは教室内のステージの音響をやっているので、三田祭期間中はほとんど教室にこもっています(笑)。そもそも音響専門で機材まで所有している大学のサークルというのが珍しいので、他大学の学園祭での音響の依頼を受けることもあります。

―では慶早戦に関してはどのような仕事があるのですか?
慶早戦での仕事は應援指導部から依頼を受ける形でやっていて、彼らの演奏・応援のサポートです。放研(放送研究会の略)全体の活動としては、MC嬢・ビデオ編集・卒アル関連・PA・観戦がありまして、今回僕が担当したのは、この中のPAという音響の仕事の総括です。そして、この慶早戦というのは放研の一年生にとって一大イベントでもあります。実際に機材をいじるのはPAパートのメンバーなのですが、一年生はこの機会に音響に関する知識を得て、本番では機材の準備・セッティングをやるんです。そして試合が始まったら、スピーカーの近くにいて異常がないかどうかを確認します。
僕は今回、チーフとして慶早戦が始まるまでの3週間で音響に関する知識と、依頼された仕事を行なうという意味での"プロ意識"を一年生に教えることになります。だから、PAパートだけでなく、一年生にとっても今回は大仕事なのです。

■準備期間の活動について

―どのようなことをやっていたのですか?
さっきの話にあったように、この期間中に一年生に教えなければならない事が二つあります。
・ 音響に関する基本的な知識をつけてもらうことと、機材のセットの仕方を覚えてもらう、という技術的なことと
・ 仕事を引き受けてやる、というプロ意識も持ってもらうことです。
指導は2年生みんなでやることになっていて、一年生は授業を優先しつつ空いた時間に部室にくることになっています。そういった感じで強制的なものではないので、僕はどうやったら一年生が来てくれるのかを考え、彼らがモチベーションを上げる環境作りをしていました。一年生がいつ来ても対応できるように、空いた時間は常に部室で待機して、機材のチェックや来てくれた一年生に対して指導をしました。

―練習期間を振り返ってみてどうですか?
今年は、例年に比べて入部した人が少なくて、一人にかかる仕事の負担も大きかったですが、幸い一人ひとりがとてもやる気を持って楽しんでくれました。少なかったからこそ一人ひとりが自分のやるべきことを自覚してくれていたのかもしれません。結果的には(人数が少ないことで)一人当たりの練習量が増えたので、トータルの練習量は去年の4分の3ぐらいだったのではないかと思います。

■本番の慶早戦について

―一年生の活動を見てどうでしたか?
練習量が反映されていてよかったです。
本番で僕たちに準備のための入場が許されるのは午前6時〜7時までの1時間だけなので、その間にセットを終わらせなければなりません。開門前の30分時間が取れる事もありますが、確証はないのでこの一時間がとても大事です。ここで一年生がこれまでの練習の成果を発揮するのです。
一日目は初めて現場で実践することになるので、本番ならではのミスなどがありました。日吉で練習したときと神宮でやるのは違うので、マイクを立てる場所を間違ったりして作業がうまくはかどらなかった。
しかし二日目に、彼らは時間内に仕事を終えてくれました。重たい機材の搬入からセットまで、本来なら1時間で終えるのはかなり難しい仕事です。実際に去年は一時間で終えることはできませんでした。それをいつもより少ない人数でやってくれたので本当に嬉しかったです。
三日目に関しては、早朝の神宮は雨がひどかったので僕たち2年も経験したことのない事態でした。この日は例外的に作業が難航したので時間に関しては何ともいえません。

―今回の慶早戦で大変だったこと・反省点は何ですか?
午前中天候が悪かった3日目は結構大変でした。こんな最悪なコンディションの中で機材が壊れるかもしれないというリスクもありましたが、試合にGOサインが出る限りやらなければならない。前もって準備していた道具を使って防水対策をして雨に備えました。
反省点は應援指導部との連携がうまく取れていない場面があったことです。

―本番中意識していたことなどは?
本番はもう『やっちゃえ!』って感じでとにかく指示を出しました。試合が始まれば、あとは音響の仕事になるので、一年生にとっては事前のセッティングがメインです。

■次回へつなげる

―慶早戦を通して今の一年生に伝えることはありますか?
PAという仕事には同時性と確実性が求められます。今回の悪天候ようにいつ何が起こるかわからないし、そんなときには臨機応変な対処が必要です。そのために僕は普段から『頭を使え』ということを強調してきました。そして、作業をしながら次にやることを考えるために普段の練習が重要なのです。
慶早戦だけでなく、僕たちは普段、人からの依頼によって活動する事が多い。そんな場面では依頼者に期待以上に満足してもらう事が大切なので、準備とアフターケアの両方が必要なのです。そういう意味で目的と手段を穿き違えないで欲しいと思います。あくまでお客さんの満足を得る事が目的、それが前に言ったプロ意識というものになると思います。
それから、次回秋の慶早戦では外野スタンドの音響をやることになるのですが、今度はゼロからの出発じゃないので心の余裕からたるんでしまい、スランプに陥ることもあるかもしれない。さらには一年生同士で指示したり、されたりする。この点でも今回と違うので、人間関係などでの問題も起こりかねないですが、僕たちがやるのはあくまでお客さんのための仕事だということです。

■松尾君の個人的な想い〜イベントでの活動を振り返ってみて〜

―チーフとしてどんなことに気をつけましたか?
そもそもこのイベント自体、僕たちにとって"うさぎ跳び"的な要素があったと思います。うさぎ跳びは以前足腰を鍛えるためにと、スポーツの多くの場面で練習メニューとして行なわれていたけど、結果的に足腰を悪くする事がわかり今ではほとんど行なわれなくなった。つまり、うさぎ跳びをやることはかえって非効率だったのです。
今回のイベントでは、締めすぎると"しごき"になってしまう。プロ意識(相手が求める以上のものを提供すること)を実行しようとするあまり、"きつさ"が先行してしまう事を控えたかったです。そうすることによって要領よく仕事をこなしたいと考えました。
あとは、上に立つ人が動くことで一年生に仕事の要領をつかんでもらいたかったので、僕は率先して仕事をしました。

―それらのことは結果的にどうでしたか?
うまくいったと思います。昼休みは時間が短く限られているので、基本のみをやり、時間のかかるものは放課後やるようにしました。結果は、トータルの練習量を減らす事ができたし、本番ではセットを60分以内に終わらせることも実現したのでよかったのではないかと思います。

―チーフをやってみてどうでしたか?
いい経験になりました。
プラス面としては、
トラブルシューティングというよりも、トラブルを未然に防ぐ事が大切なのだという事が上に立ってみてわかりました。具体的にはリスクのある要素をあらかじめ省くようにしました。
他には、このイベントを通じて自分の視野を広げる事ができました。実際には、覚悟はしていましたが、イベントのためにかなりの時間や行動の制約を受けました。でも、部室に一人でいる時間などにいろんな事を考える事ができた。これ(慶早戦)が終わったらやりたいことなどをたくさん思いついたし、イベントを通して身につけたことを他の場面で生かせるんじゃないかとも考えました。このようなことを考えることで自分の可能性が広がり、実際に今ではそのとき考えていたことを実行しています。
マイナス面としては、
サークルという団体で、他のメンバーの練習をある程度強制しなければならなかったことは辛かったです。結構自己嫌悪になりました。各メンバーのモチベーションと費やす時間が違うことで、一人ひとりの負担(時間的な拘束など)に差が出てしまったりしました。忙しいのは分かっているけどもっと練習に出て欲しいと思う気持ちと、サークル活動で部員を束縛しなければならないことのジレンマが僕にとっては嫌でした。

―チーフをやる前と後で変化はありましたか?
上に立つ人間としての心構えが分かりました。初めは、準備をする事が上に立つ人間のやることだと思っていましたが、そうではなくて、準備の準備をする事が僕の仕事なんだということです。今回に関して言えば、みんなに練習に参加してもらえる環境を作ることや練習計画などです。
僕はこの3週間毎日8時半には部室(塾生会館内)に行って、授業に出て、昼休みに部室へ行き、授業に出て、また九時まで部室、そして帰宅という生活を続けていました。毎日本当に家と部室の往復だけだったので、精神的な負担がかなり大きかったです。でも、このイベントがあったからこそ今こうして充実した時間を過ごしているのだと思います。