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Case 5
■T.K論作者に迫る!!

あなたは「T.K論」をご存知だろうか?ひようらのとあるカラオケ屋で売っている経済学の解説ノートのことである。
「例えば、みんなが一生懸命バイトして、月5万円ずつ貯めて、やっと100万円貯めたとするよね?ここでインフレが起きてみ。すげーむかつくよ。例えば急にインフレになって、物価が20倍になったとしよう。この場合自分のバイト代も20倍になったと仮定すれば、これからするバイトに関しては、インフレの影響はあまりない。だけどせっかく20ヶ月がんばって貯めた100万円は?今となったらバイト1ヶ月分と同じになってしまう。」(「気軽にはじめるマクロ経済学 T.K論」21ページより一部抜粋)
 まるで近所のお兄さんが語りかけるような口調で、やさしく経済学を解説してくれるT.K論はたちまち塾生の間に広まり、今では経済学を学ぶうえでかかせないアイテムとなりつつある。
この本の作者、木暮太一さんは当時現役の経済学部生であった。T.K論はなぜつくられたのか?経済学を学ぶコツとは何なのか?この疑問を直接本人にぶつけるべく、我々は木暮さんに突撃インタビューを行った。



T.K論作成 

─T.K論作成から販売までの経緯を教えてください。

「僕はね、経済ができなかったんですよ。1年の前期のテストで100点満点中、6点。授業なんてほとんどでてなくてテスト丸暗記していたんですが、ポイントがずれていたみたいで。「こりゃまずいな」と思っていました。2年になって、マルクス経済学をやるんですが、意味がわからなくて。でも、もともと勉強するのが好きで、大学行ってなくても一人で、勉強するクセがあったんですね。それで友達にテスト前に過去問の模範解答を頼まれて書いていたらものすごく長くなった。初めはそれをコピーしてまわりに配っていただけなんですが、それだけじゃ達成感がないなと思って。サークルの友達に「本を出してみたら?」と言われたのがきっかけですね。T.K論という名前はクラスの友達が考えたものです。だから全部自分で企画したわけではなく、友達からヒントもらったりして作成しました。そのため、自分で作った気がしないですね。売れると思ったり、金目的でつくったわけではないです。たまたま本屋に置いたら売れちゃったという感じです。自分が3年になってから本屋に置いてもらったんですが、サークルの後輩に宣伝を頼んだら、発行した300部全部売れてしまい、自分でびっくりしました。それで、続編をつくることにしたんです。」

─T.K論販売までどんな苦労がありましたか?

「まず初めに経済学の内容を理解するのに苦労しました。参考書を見てもわかるものが一冊もなかったんです。文章の口調を見てもらえばわかると思いますが、執筆自体は楽しんでいたので、大変だと思ったことはありません。
もうひとつ苦労したことは、本屋に置いてもらうことです。初め、東急のCAREが置いてあった本屋に頼んだのですが、あっさり断られました。大学の生協もテスト対策的なものは大学との兼ね合いで売ることはできないと断られました。
2,3ヶ月あきらめていた時期もありましたよ。断れるのが怖くていろんなところにがっついて売り込む勇気がなかなかなかったんですね。もう少しあの頃度胸があったらな、思います。でも、中央通りにある山村書店(現在スターバックスがある場所)というところに、ダメ元で行ったらOKされて置くことになりました。現在カラオケ屋に置いてあるのは、意図的なのではなく、山村書店がなくなった後、経営者が同じだったため置かせてもらっているだけです。他大学では、東大、一橋、法政、横浜国大、明治などの生協に置かせてもらっています。法政の生協の店長が生協間のメーリスで紹介してくれたのがきっかけで、置かれるようになりました。」


─「マクロ経済学の楽論」を出版することになった経緯について教えてください。

「T.K論が売れていたので出版社に頼んで本をだしてみることにしました。大手の出版会社にはいくつも断れられたのですが、2人でやっている小さい出版会社に頼んで出版させてもらいました。」
─タイトルの由来はなんですか?

「T.K論なんて全国のみなさんにイニシャルをだすのもなあ、と思ったし、T.K論じゃ、アマゾンなどでマクロの本を探そうと思って検索してもひっかからないので違う名前にしようと思っていました。いろんな人にアドバイスを聞き、内容がすぐわかるもの、そして硬いイメージではなく簡単とか楽とかいう言葉を入れたかった。その結果考えたのが「マクロ経済学の楽論」となったんですね。TK論は友達が考えたけれど、楽論は自分で考えました。」

TK論作成を通して

─TK論作成を通じて得たものはなんでしょうか?

「学生のときに、なにか形に残したものがある、というのは大きいですね。就職活動してても思うんですが、形のないものは信用されないんですよ。優秀な人でも、形がないと認めてもらえないということがあるんです。また、学生時代にサークルやボランティアをやっていたという人はよくいるけど、本を書きましたというのは珍しいし、目立つので就職活動ではそれを前面にしていましたね。」
─自信になっているということでしょうか?

「自信というよりは自分のモチベーションになっています。TK論を作り上げたことが、僕の中の根底にあるヤル気をつくっているんです。」
─今の御仕事で役立っていることはなんですか

「営業をやっているのですが、やはり相手の反応を見ながらどういう言葉ならわかってもらえるかと考えますね。自分の仕事を相手の業界用語などを使って説明する。すると、わかろうとしくれるんですよ。相手にわかるやすく伝えるということは、人とのコミュニケションに役立つ、大事な能力ではないでしょうか。全ての基本でもあります。」

経済学を学ぶコツ・アドバイス


─経済学を学ぶコツ・アドバイスがあったら教えてください。

「経済学を理解するためには、自分の生活で起きたことと重ねて考えることが必要です。経済学を説明するのに、経済学の難しい用語を使ってもわかるわけがないんですよ。結局それはどういうことなのかイメージできるようにならないと。例えば発明というのは、全く新しい技術だと思われがちですが、それだって過去のものをどこか一部だけ変えただけだったりするんです。それと同じで、新しい概念だって結び付けられないものはない。ただ漠然としたイメージを持つだけではうやむやになって理解できません。知らない言葉は知っている言葉で置き換えるとわかりやすくなりますよ。」


学生時代

─どのような学生時代を送っていましたか?

「学校の授業には全然出席していませんでした(笑)テニスサークルに所属していましたが、僕は飲み隊長をやっていました。1年のときは授業にいかないで、英会話スクールばっかり通っていて、2年はドイツ語、中国語、英語と語学の授業にしかでていませんでしたね。だから授業をうけていた記憶はあまりないです(笑)」

─経済学以外に勉強していたことはありますか?

「実は僕はずっと教育学に興味をもっていました。T.K論を書いていると経済学のプロだと思われがちですが、実際はそうじゃないんです。T.K論は経済学ではなく、いかにわかりやすくものを教えるかということに重点を教えてるんですね。授業みたいに直接相手を目の前にして物事を説明するのは楽です。相手が理解してるかどうかは反応を見ればわかるわけで、わからない顔をしていたら更に説明を加えればいい。けれど本では読者が理解しているかどうかはわからない。だからこそ、いかに読んでる側の視点にたつかということに苦心しました。この本も10回は書き直していますよ。
もともと経済学の専門書として書いているわけじゃないから、教授から見たら、内容が間違えていると言われるかもしれない。理論など浅い部分もあると思います。でも、僕は「まだ理解できないこと」を「すでに知っていること」からイメージさせるなだらかな坂道をつくってあげることが必要だと思います。でも、これを実践している人は少ない。教授は、いきなり知らない言葉を使う。坂道じゃなくてギャップが激しい階段なんです。」

─教えるということに関して影響を与えられたものはなんでしょうか

「僕の通っていた予備校の英語の先生です。その先生は、辞書からそのまま持ってきたような日本語で和訳すると、「あなたは頭を使っているんですか?普段こんな言葉使わないでしょ。」と注意されるんですよ。英語を訳すときにわかりやすい日本語に置き換えるという作業をすることにより、普段から「結局どういうこと言っているのか」を考えるクセがつきました。
また、特定の相手一人に対して書いているとイメージするようにしています。多くのビジネス本などを書いている中谷彰宏さん場合、自分のお母さんに対して、書いているとイメージしているそうです。私の場合は、自分に対してですね。昔の経済学がわからなかった頃の自分に対して、わかりやすいように書いているんです。こういう説明じゃわからないだろうなと思ったら何度も書き直します。」

─T.K論は将来的にはどうしていきたいのでしょうか?

「T.K論が生まれ変わって『マクロ経済学の楽論』になりましたが、これを慶應だけでなくいろんなところで売れるようにしたいです。そのために、休日は営業活動したり、生協連合本部とメールでやりとりしてマクロ経済学の楽論を紹介してもらったりしています。
また、経済学に限らず、違う分野にも進出したいですね。違う分野の専門家と組んで、僕はわかりやすく伝えるということを重点に本を書いてみたいです。」

─将来やってみたい仕事はなんでしょうか。

「教育関係の仕事をしてみたいと思っています。教育といっても、小学生中学生相手ではなく、大学生や社会人に向けて自己啓発の本を書いたりセミナーを開いてみたいですね。」


─最後に塾生にメッセージをお願いします。

「とにかくいろんなことをやってみてください。いろんなバイトをしたりしてほしいですね。授業にきっちりと出るのは高校生までです。やりたいことができるのは大学生の期間しかありません。やりたいことやって、やらなくて済むことはてっとり早く終わらせる。テストなどは僕の本などを使っててっとり早く終わらせてください(笑)。いろんなことを経験して考えるきっかけをもってほしいです。絶対に将来に役立つと思いますよ。」
【T.K論】
ひようらの中央通りのカラオケ屋「サウンドトレイン」にて販売中。
マクロ経済学、ミクロ経済学、マルクス経済学それぞれ上下巻の、全6冊。
【経済学の楽論】
「マクロ経済学の楽論」(遊タイム出版 2003/02)
「ミクロ経済学の楽論」(遊タイム出版 2003/12)
慶應の生協書店にて販売中。慶應の生協書店ベストセラー1位になったほか、紀伊国屋の財政・経済分野でベスト10に入った実績を持つ。
詳しくはHP(http://rakuron.com/)に記載。


取材   柄澤直己
 大平明日香



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